研究課題/領域番号 |
21K04048
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岩井 誠人 同志社大学, 理工学部, 教授 (70411064)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マルチパスフェージング / 相関距離 / 伝搬特性の局所性 / 無線物理層セキュリティ / アレーアンテナ |
研究実績の概要 |
無線通信環境において一般的となるマルチパスフェージング環境においては、フェージングによる伝搬特性の変動が高相関となる離隔距離である相関距離以上に離れた遠方地点の伝搬特性の推定は不可能と考えられてきた。つまり、マルチパスフェージング環境では、電波伝搬特性に「局所性」があると言える。これに対して本研究では、アレーアンテナ構成と到来方向推定技術を応用した信号処理との組み合わせにより、フェージングの相関距離を超えた地点での伝搬特性推定を実現する技術を開発する。 まず、本研究の初年度にあたる令和3年度においては、シミュレーションを中心とした検討を進めた。同じ目的を有する従来検討では、主には、MUSIC法による到来方向推定に最小二乗法による複素振幅推定を組み合わせた方式を用いていたが、両者を一括して実現可能であり、また、処理自体もシンプルである、圧縮センシングを採用した方式を検討した。シミュレーション評価では、検討に着手する最初のステップとしてまず平面波環境における推定特性の確認を行った。その結果を年度内にまとめて口頭発表を行った。その方式を拡張して球面波環境への対応を検討したが、強度が低下する遠方波源からの到来波が検出できなくなる課題が明らかとなり、その対策を検討した。 シミュレーション検討以外にも、令和4年度から実施予定である、実測による評価の準備を進めた。複数アンテナを用いる測定の要としてRFスイッチを用いる構成を検討し、測定システム全体の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画で立案した研究計画に沿って研究を進めた。当初計画では、初年度にあたる令和3年度にはシミュレーションを中心とした検討を進めることとなっている。まず、基本的な信号処理方式として、本研究では、圧縮センシングの一つの方式であるFISTAを到来波推定アルゴリズムとして採用した。これは、到来方向推定と複素振幅推定が同時に行えるということ、また推定処理が比較的シンプルであること、などのメリットがあるからである。また、令和3年度の評価は、シミュレーション検討に着手する最初のステップとしてまず二次元平面波環境における推定特性を中心として行った。 研究計画には、令和3年度のシミュレーション検討の項目として「環境変化に対する性能評価」、「球面波への対応」、「三次元環境への対応」、が挙げられている。環境変化に対する性能評価は、到来波数やその方向、また、推定対象点までの距離、などの種々のパラメータが変化した際の推定特性を分析した。球面波への対応は、平面波環境の推定を単純に距離方向に拡張する方法を検討したが、強度が低下する遠方波源からの到来波が検出困難であるという課題が生じた。これについては、FISTAの閾値を仮想波源位置までの距離に応じて変化させる方法により解決可能である見込みを得ており、令和4年度にその確認を行う。三次元環境への対応については、二次元で実現された方式は三次元環境でも基本的にそのまま適用可能であり大きな課題は無いと考えられる。 また、令和4年度から実施予定である、実測による評価の準備を進めた。複数アンテナを用いる測定システムの構築が必要となるが、これをRFスイッチによる切り替えにより実現する構成を検討した。RFスイッチ本体の仕様を検討・決定し、コロナ禍影響などで物品手配にやや時間を要したが必要装置の手配を進め、測定システム全体の検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度以降についても、当初予定した計画に沿って研究を実施する。 シミュレーションによる評価としては、令和4年度は、令和3年度に実施したシミュレーション評価の各項目の内容を踏まえて、「現実的な環境における推定性能の分析」、を行うこととなっている。この中で、技術的には、球面波環境への対応、がポイントとなる。令和3年度の評価から、圧縮センシング(FISTA)のみでは、相対的に遠方から到来する波の推定が困難であるという問題が明らかとなっている。実際の環境ではマルチパス環境となり到来経路がそれぞれ異なる結果として、それらの仮想的波源までの距離は一定ではなく異なるものとなる。従来の推定方式を単純に拡張した方式ではこのような現実的な環境へは対応が困難である。これに対して、FISTAの削除閾値を仮想波源位置までの距離に応じて変化させる方法を考案している。これにより良好な推定が可能であるという結果が得られている。令和4年度はこの点を中心としてシミュレーション評価を継続する。 また、令和4年度から実測による評価を開始する。まず、構築した測定系の確認を行い、年度内に第一次の測定を行う。さらにその結果をシミュレーション評価にフィードバックし、実際の特性を踏まえたさらなる方式改善に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生は、主に学会出張などができなかった影響による旅費の不使用と、測定システムの構築に予定していた学生バイト料と部品代などの物品費購入の実施時期の延期によるものである。 今後の使用計画については、学会出張については、状況が今後も不透明であることから、出張可能な場合に必要に応じて実施する。残額については、主に、測定システム構築における部品代に充てる。
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