研究課題/領域番号 |
21K04052
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中平 勝也 沖縄工業高等専門学校, 情報通信システム工学科, 准教授 (30500566)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 衛星通信 / マルチビーム / 電波干渉 / スループット |
研究実績の概要 |
100を超える多ビーム数で地上を照射する衛星と、多くの地上のユーザー端末などから構成されるマルチビーム衛星通信においてシステム全体を統合する新方式の確立を目指した。そのため、当該年度は、通信衛星を用いた大規模な実証実験を行うことなく、システムの有効性を実証し評価できる汎用衛星シミュレーターを新たに開発した。各ビームの周波数帯域は繰り返しビーム数によって一意に決まる。そこで、繰り返しビーム数と各ビームに割り当てる電力を調整できるシミュレータとした。本シミュレータを用いることで各ユーザーのスループットを算出できる。 このシミュレーターを用い、まずは、簡単のため日本列島を全8ビーム配置で覆い、繰り返しビーム数RをR=1とR=3としたときのマルチビーム構成とした。R=1とR=3の各ビームに電力を均等に割り当てたときのビーム間干渉電力Iを求めると、R=1はR=3に比べて全体的にビーム間干渉電力Iが大きい。上述よりシミュレータは予想通りの動作をしていることが確認できた。 次に、シミュレータを用いて、ユーザーのスループットの総和が最大となるように、繰り返しビーム数と各ビームの電力の割り当てを最適化した。総電力は12[W]、総周波数帯域は35[MHz]を用いた。地上のユーザー端末は2000とした。各ビームには都道府県の人口分布をもとに合計2000人のユーザー端末を分散させた。繰り返しビーム数をR=1からR=8まで変化させた。Rごとに最適化アルゴリズムのAdamを用いて、全ユーザー端末の平均スループットが最大となるように各ビームに電力を割り当てた。繰り返しビーム数Rの増加にしたがってスループットが最大となるポイントが発生し、繰り返しビーム数R=5でスループットの総和が最大となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルチビーム衛星通信システムのような大規模な通信システムの実証実験は莫大な費用がかかる。そこで、当該年度は、あるビーム内のユーザー端末と別のビーム内のユーザー端末または基地局が通信衛星を介して計算機上で模擬的に通信を行い、その上で、来年度以降に本研究で提案する通信技術を評価できる衛星シミュレーターを新たに実現すること目指し、本シミュレーターを用いて、システム全体のパラメーターの最適化を行うことでスループットを最大化した。詳細には、ユーザー端末ごとのアンテナ経、バッテリー量、最大送信電力や、要求される情報速度、エンドツーエンドのパケットエラー率を考慮した上で、伝送装置の変復調方式、誤り訂正符号化方式、送信電力、周波数帯域を制御し、さらに、システム全体のパラメータとしてビーム数、ビームごとの地理的配置・ビーム半径・ビーム送信電力、ビームの繰り返し周波数の数、アンテナの放射パターンなどの最適化を行う必要がある。 当該年度の実績としては、衛星シミュレーターの開発、およびビーム数、ビームごとの地理的配置、ビーム半径、ビーム送信電力、ビームの繰り返し周波数の数、アンテナの放射パターンなどの最適化を行うことができたため、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
衛星シミュレーターに、既存のインターネットプロトコルであるTCP/IPの実装や通信ー地上間の無線伝搬路特性を考慮した実装を追加して行う。そこで、既存のプロトコルシミュレーターに衛星通信技術をモジュール化して組み込む。これにより、ユーザー端末ごとのアンテナ経、バッテリー量、最大送信電力や、要求される情報速度、エンドツーエンドのパケットエラー率を考慮した上で、伝送装置の変復調方式、誤り訂正符号化方式を決定することで、ユーザ端末のパラメータを考慮した最適化を行う。 さらにユーザ端末の伝送方式に衛星通信への適用が未実施であるスペクトラム分割・圧縮伝送の適用を行う。シングルキャリア伝送を用いていたユーザー端末は、新たに、スペクトラ分割伝送で空き帯域の個数に合わせてシングルキャリアのスペクトラムを分割した後で、スペクトラ圧縮伝送で空き帯域の幅にフィットするように分割スペクトラムの周波数帯域幅を狭くする(=圧縮する)。これまで無駄となっていた空き帯域の有効利用が行えるため、周波数利用効率の向上が期待できる。さらに、ビーム間干渉が大きい周波数を避けてスペクトラムの配置を行うことにより、干渉電力の低下による信号品質の向上が期待できる。
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