研究課題/領域番号 |
21K04058
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
久我 宣裕 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80318906)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | passive intermodulation / antennas / antenna measurement / mobile communications / noise measurement / 相互変調ひずみ / PIM |
研究実績の概要 |
無終端法と終端法(整合法)に関する測定値の差異について、集中定数等価回路と調波平均法を用いたシミュレーションにより解析した。また両測定法における共通基準試料として、「被接触コネクタ領域で発生するPIMの影響」を無視できるような、非接触コネクタ領域以外を部分的にニッケルメッキした被測定試料を提案した。これにより終端法および無終端法の互換性および測定結果の相互換算を検討した。その結果、3次PIMでは無終端法の測定最大値が整合法より最大24dB高くなることを示した。 次に周波数特性を有する測定装置・被測定試料間の結合量について、同軸管を用いた非接触PIM測定法で提案された補正法を本手法に適用した。終端法では本補正により測定結果が一定値に収束する一方で、無終端法では補正結果が試料長に依存し、従来の結合量補正法では収束値に幅が生ずることが確認された。本検討結果は、電子情報通信学会アンテナ伝搬研究会(2023年4月)にて報告している。 なお上述の終端法は完全整合を前提とした理想的議論であるが、現実の測定では不整合損失が必ず存在する。そのため、平衡系線路を用いた非接触PIM測定法にTRLキャリブレーションを導入し、測定系内の不整合損の影響を除去したPIM推定法を考案した。 また「被接触コネクタ領域で発生するPIMの影響」を終端法において分析した。シミュレーションの結果、非接触コネクタ領域で発生したPIMはReverse-PIMに大きく影響し、Forward-PIMへの影響は無視できることを確認した。本検討結果は、電子情報通信学会総合大会にて報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、既存の測定法である終端法に対応する平衡系PIM測定系を構築した。その際に、平衡系PIM測定系用の非接触コネクタおよび低PIM整合終端を開発した。開発した非接触コネクタは、被接続線路の形状を変えることなく非接触接続を実現できることがこれまでにない特徴であった。また開発した低PIM終端は可変参照信号を生成できる特徴を持ち、終端器や測定系のPIM性能定量化という新たな付加価値を有する。一方で、より簡易な測定法となる無終端法についても測定系を構築した。 2022年度は、集中定数等価回路と調波平均法を用いた高周波回路シミュレーションを導入し、各種検討を進めた。これにより微小なインピーダンス不整合がPIM測定に与える影響を定量的に把握できるようになり、かつその影響が予想よりも大きいものであることが確認された。そのため、本研究において構築した測定系に対して、非接触コネクタ端を基準面とした校正を行い、その影響を除去する手法を提案した。なお現時点では、本手法は測定系の残留PIMが無視できる場合のみに適用範囲が限定されている。一方で実際の測定系では残留PIMの影響は無視できない。そこで非接触コネクタ部分で発生するPIMが測定結果に与える影響についても解析した。なおここでは整合法と無終端法で共通利用できるサンプル構成も考案した。 上記の検討は主にインピーダンス整合を前提とした終端法を用いて実施した。これに対し、より簡易な新しい測定法として位置づけられる無終端法について、その動作、および終端法に対する測定値換算について検討を行った。その結果、3次PIMについて、両測定法間の測定結果相互換算ができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年度は「非接触コネクタ領域で発生するPIMの影響」を終端法および無終端法におけるReverse-PIMに対して定量化し、それを低減するための原理検討を進める。ここでは2022年度に提案した非接触コネクタ領域以外を部分的にニッケルメッキした基準試料と、非接触コネクタ領域にもニッケルメッキを施した試料等を作成し、それらの差異低減化を図る。 またニッケルメッキを片面にのみ施したストリップ線路を外注作成し、これを用いて表裏面の入れ替えが可能な被測定試料を研究室にて内製する。これを用いて、信号線導体の表面および裏面の状態差が平衡系無終端法に与える影響を評価する。これが本研究課題の主題である「実運用時の電磁界分布を考慮した非接触PIM測定」の原理的効果測定となる。 なお上記検討と平行して測定系全体の残留PIM低減に取り組み、測定系の高感度化を目指す。手法としては、材料選定・製作精度向上とノイズキャンセリングの二通りが考えられる。前者については測定系をエアラインで構成することで、測定系の低損失化を行う。また外注製作等を導入し、平衡系線路および非接触コネクタの製作精度を向上させる。ノイズキャンセリングは、日々状態の変化する接点系の残留PIMを低減するために導入する。この際、サンプルPIMとシステムノイズを同時観測できるように工夫する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では初年度に導体材料のPIMを非接触測定するために用いるテーパ同軸管を2本、計約100万円(税込)程度で製作予定であった。これは微弱PIM測定では、テーパ同軸管の表面処理(メッキ等)の損失が測定感度に大きく影響するためである。一方、測定器内部で発生するPIMが増加かつ不安定になると言う問題が依然として発生している。これに対して2021年度は、ダイオードを強力な参照信号源として利用する手法を導入し、PIM測定器の性能が劣化した状態でも原理検証が可能となるよう対応を行った。そのため、申請当初、テーパ同軸管が使用される予定であった「マイクロストリップ線路における電流分布偏在がPIM特性に与える影響の分析」は、「非接触コネクタ部分で発生するPIMの影響評価」という課題に変更した。 2022年度は、被測定試料の設計変更に伴い、一部の被測定試料(メッキ導体)製作を外部専門業者に依頼した。その結果、上記試料が、測定系の残留PIMよりも十分に高い安定したPIM源になり得ることを確認した。そのため、テーパ同軸管用に形状した予算を被測定試料およびシステム高感度化のための予算に移行することとした。 以上のように、「テーパ同軸管による微弱PIM測定」は「製作精度が高く、安定したPIM源となる外注試料と既設テーパ同軸管を用いた実験」で代用することとし、テーパ同軸管の製作費用を外注製作費用として振り替え、かつ繰り越すこととした。
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