研究課題/領域番号 |
21K04061
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田野 哲 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (80378835)
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研究分担者 |
上原 一浩 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (10221798)
冨里 繁 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (60362951)
侯 亜飛 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (60598457)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 無線マルチホップ / 晒され端末 / MIMO / プリコーディング / 無線中継 |
研究実績の概要 |
第五世代セルラーや無線LANのIEEE 802.11ax 等の研究開発動向からも分かるように、無線ネットワークの高速化・大容量化が止まることを知らない。また、夥しい数のIoTデバイスとインターネットを繋ぐ無線ネットワークの同時接続数は、本格的なIoT時代であろう次世代には、一桁以上増大させる必要がある。高速化を達成するため、広い連続帯域の割り当てが可能な高周波数帯が次世代の無線通信に割り当てられると想定される。高周波数帯の無線信号は伝送路で大きく減衰する。この問題を緩和する、無線マルチホップネットワークが盛んに検討されている。加えて、IoT社会の実現のため、センサー端末が様々な場所、例えば人が足を踏み入れない場所にも配置される。そのような場所との通信を実現するためにも、無線マルチホップネットワークの適用が検討されている。但し、従来の無線マルチホップネットワークを適用した場合には、ホップ数の増大と共に通信速度が低下する問題がある。この問題を克服するため、送信端末や中継端末に複数アンテナを配置して空間多重を適用することが検討されている。但し、空間多重を適用しても、中継端末や送信端末のアンテナ数が少ないことがボトルネックとなり、通信の速度向上を阻むという問題がある。また、無線ネットワークでは晒され端末・中継端末が容易に生まれ、無線マルチホップネットワーク全体の通信速度を制限するという問題がある。 本研究は無線マルチホップネットワークにおける上記のボトルネックの解消、あるいは緩和が原理的に可能かどうかという学術的な問いに端を発している。複雑な無線マ ルチホップネットワークにおける「中継機のアンテナ数不足」 や「さらされ中継局」による通信速度低下問題を研究し、この問題の緩和・解消法を探る。 同時に、緩和・解消法を導入したときの通信速度・通信容量の理論を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「無線ネットワークコーディング」と「過負荷MIMO空間多重」を組み合わせることで「中継機のアンテナ数不足」や「さらされ中継局」による通信速度低下問題の解消を狙う。本年度は、下記の項目に関して研究を進めた。 1)中継機アンテナ数の少ない無線2ホップネットワークでの通信速度向上:上記のボトルネックを解消するため、チャネル行列の特異値行列から受信フィルタを生成し、この受信フィルタを用いる非線形プリコーディングを考案した。加えて、基底格子縮小を非線形プリコーディングに適用することで、中継端末のアンテナ数の2倍以上の空間多重を可能にし、高い伝送特性を達成した。 無線ネットワークコーディングを用いた無線2ホップネットワークでは、二つの端末が中継局にパケットを同時に送信する。即ち、中継局と2つの端末間に、各々チャネル行列が存在する。即ち、前記非線形プリコーディングに適用する受信フィルタのためのチャネル行列には選択肢がある。そこで、物理層ネットワークコーディングの特性を最大化する非線形プリコーディングのためチャネル行列の選択法を提案した。これにより、晒され中継端末状態にあるにも関わらず、非常に簡単な受信信号処理により高品質な信号の復調を可能にした。 2)3入力物理層ネットワークコーディングによる通信速度向上:簡易なリング型無線ネットワークに対する3入力物理総ネットワークコーディングを考案し、簡易な信号処理にも関わらず、高い周波数利用効率が達成できることを示した。次に、セルラーのような六角形の、より複雑な無線マルチホップネットワークのための3入力物理層ネットワークコーディングを提案した。 これにより、従来に比較して2倍の周波数利用効率を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
1)中継機アンテナ数の少ない無線2ホップネットワーク:前年度提案した非線形プリコーディングを適用することで、中継端末における受信処理を非常に簡易化できるが、前年度提案した非線形プリコーディングのためのチャネル行列選択法はかなり演算量が多く、端末の演算量を増大させる。そこで、次年度は、この非線形プリコーディングのためのチャネル行列選択法の演算量低減を検討する。 2)3入力物理層ネットワークコーディング:前年度、セルラーのような、複雑な六角形無線マルチホップネットワークのための3入力物理層ネットワークコーディングの構成法を確立したため、今年度はもう一度、簡易なリング型マルチホップネットワークに戻り特性改善の検討を行う。具体的には、リング型マルチホップネットワークのための誤り訂正符号の適用法を検討する。中継端末における無線物理層ネットワークコーディングのための簡易な繰返し復号を検討し、更なる特性の改善を図り、周波数利用効率の改善を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、海外で開催される国際会議への研究成果の投稿を計画していたが、それらがオンラインで実施されることとなった。研究成果のアッピールの観点からは対面形式の国際会議がより望ましいとの判断から、急遽、国内で開催される国際会議(実際にはハイブリッド形式)に投稿先を変更した。そのため、当初予定していた海外への旅費等が不要となったため、予算執行計画の修正を余儀なくされた。次年度は、多くの国際会議が対面で実施されることがアナウンスされており、それらの幾つかに研究成果を投稿し、予算を執行する。 一方、世界的な半導体不足のためか、我々の研究に適した計算機サーバーが入手困難であることが判明した。そこで、効率が悪かったが、現状の計算機資産を利用して研究を実行した。但し、研究の進捗とともにより複雑な計算が必須であることが明かとなったため、研究効率の向上を狙って、次年度は入手可能な計算機サーバーの購入計画を立案する。
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