研究課題/領域番号 |
21K04064
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
臼田 毅 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (80273308)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 情報通信工学 / 量子通信 / 量子計測 / 量子もつれ状態 / 非対称型通信 |
研究実績の概要 |
本年度に行った研究を要約すると次のようになる. (1) PSK型の非対称型量子通信方式に対する減衰の効果の解析:昨年度提案したPSK型の非対称型量子通信方式について,課題としていた減衰の効果について考察した.通信の安全性に関しては減衰無しの場合と同様に確保されるため,減衰により信頼性がどのように変わるかを計算した.その結果,減衰無しでもっとも信頼性の高かった「最適状態」が減衰ありの場合には最適とならないことがわかった.次年度,減衰がある場合に最適となる状態を見いだすことを目指す. (2) 量子通信に関わる基礎的研究:本研究課題を支える量子通信の基礎的な研究として,(a)非対称量子信号の通信路容量計算,(b)混合状態に対する量子測定BWSRMの最適重み,(c)量子最適受信機の実験について,研究を進めた.(a)について,非対称信号の部分対称性を用いて密度作用素の固有値問題の簡単化を行い,その結果を通信路容量計算に応用することで従来よりも詳細な通信路容量特性を明らかにした.(b)は量子通信分野で重要な量子測定BWSRMについて,混合状態信号に対しては最適重みが一意で無いことなどを明らかにした.(c)は1997年に光学系で実施された実験を量子コンピュータにより実施した. (3) 量子計測に関わる基礎的研究:本研究の特徴は,量子もつれを利用した量子計測の知恵を量子通信に持ち込むことにあるため,本年度は量子計測に関し量子ゴーストイメージングの研究を進めた.まず,これまでの研究で用いてきた積状態を使った解析手法の妥当性を検証した.次に,不完全要因のひとつといえる散乱の影響について,簡易モデルを用いて考察し,得られる画像の例を示した.これにより,量子ゴーストイメージングが通常のイメージング技術よりも不完全要因に強く,明確な優位性を持つことが,視覚的にも容易に理解できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,非対称型量子通信方式のうち,PSK型については減衰環境を扱うこと,ASK型については安全性を考察することを計画していた.前者は計画通りであったが,後者については考察を始めてはいるが,明確な結果を出すに至っていない.しかしながら,量子通信に関わる基礎的研究は予定以上に進み,本年度も論文誌5件,国際会議論文8件を含めた研究発表など,想定以上であった.このように,計画以上に進展している部分と遅れている部分の両方があり,全体としては,おおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
非対称型量子通信方式としては,基本となるPSK型とASK型の取り組みを引き続き行う.PSK型に関しては,減衰環境における最適エンタングルド状態を明らかにする.まずは,減衰無しの最適状態を減衰ありの場合に適用したときの特性を凌駕するエンタングルド状態の特徴を調べる.次いで,低次元の場合の最適状態を明らかにし,高次元化するといった段階的なアプローチを取る.ASK型に関しては,安全性の考察を進める.また,両者とも,減衰以外の不完全要因について考察を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度もCOVID-19の影響により,対面で開催予定だった量子情報ミニワークショップを完全オンラインにて開催したこと,学会や国際会議等もオンライン開催となったものがあったこと,日本と海外のCOVID-19の位置づけの違いから海外で急遽開催された国際会議に参加できなかったこと,出張による情報収集や研究討論なども縮小・延期したこと,対面でのアルバイト雇用が縮小型だったことなどにより,次年度使用額が生じた.2023年度は,対面の学会・国際会議等への参加やワークショップの対面開催,対面アルバイトの増加を見込んでいる.
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