研究実績の概要 |
電波利用が増えるにつれて, 干渉電波によって生ずる無線通信の劣化が深刻な問題となっている. この通信劣化は電波の出入り口であるアンテナを機能化することにより防げる. このような機能化されたアンテナを干渉除去アンテナ(Anti-Interference Antenna: AI-ANT)とよぶ. 従来のAI-ANTは直線偏波用であり, 円偏波用AI-ANTの例はアンテナ構成が難しいために極めて少ない. 本研究の目的は, この困難を打破し, 新たに円偏波用AI-ANTを創造することにある. 本研究では, 新人工材料素子であるメタマテリアル・アトムを使用し, 厚みが2mm程度の超薄(1/100波長程度)であって, かつ平面構造となる様にアンテナを創造する. このアンテナをAI-MetaANTとよぶ. AI-MetaANTは円偏波を使用する移動体間通信や, 衛星通信などに使用されることになる. 本アンテナを創造するために, 円偏波放射メタマテリアル・ループを同心状に複数個配置し, 学術上から干渉波除去についての電磁界特性を体系化する. 2021年度は,最終目標の準備第1段階として, 放射の最小構成素子であるメタアトムの放射特性を考察するために, 多数のメタアトムから成る折曲メタラインを構築した. これにより「折曲メタラインは1周波円偏波放射体,あるいは2周波反円偏波放射体になり得る」ことを確証した.さらに, この結果を用い, 大きさの異なる2個のメタマテリアル・ループ(メタループ)を創り, 超薄・平面構造条件下における円偏波放射条件を電磁界解析によって究明した. その結果から「これら2個の円偏波メタループを互いに接続して1個の放射体 (放射体Aとよぶ)を構成すると,円偏波放射効率は増加する」との知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終目標の準備第1段階として, 放射の最小構成素子であるメタアトムの放射特性を考察するために, 予定通りに,折曲メタラインを構築した.現在までに以下の知見(1)(2)を得ている. 知見(1)‐折曲メタラインは1周波円偏波放射体,あるいは2周波反円偏波放射体になり得る. 知見(2)‐大きさの異なる2個のメタマテリアル・ループ(メタループ)を互いに接続して1個の放射体 (放射体Aとよぶ)を構成すると,円偏波放射効率は増加する. さらに,今年度,メタアトムのリアクタンス量を増加させる方法についても検討し,新しいメタアトム構成法を見出している.以上の観点から,本研究はおおむね順調に進展している,と判断している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度(2021年度)に検討した放射体Aは2個の結合メタループから構成されていた. 次年度(2022年度)は, 放射体Aの更なる放射効率増強を実現することから始める.そのために3個の結合メタループを使用する.放射効率の増強を確認し, 次に, 放射体Aの外周に放射体Bを追加する. この放射体Bは放射体Aの3結合メタループ構造とは異なり,単一のメタループアンテナから構成される. 放射体Bに対する放射体Aによる影響を考察するために,放射体Aを金属円板で模擬化し,放射体Bのループ円周をガイド波長の実数倍で変化させ, 放射パターン,利得, 入力特性に関する影響を定量化する. この円周実数倍化のために,電流の相対伝搬位相値には‐1と+1との間の値を使用する. 定量化された諸特性を実験により検証していく.
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