研究課題/領域番号 |
21K04086
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井邊 真俊 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (00760191)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 空間コヒーレンス / 干渉計測 / 熱放射 / 波面制御 / 温度計測 / 放射温度計測 |
研究実績の概要 |
本年度は背景放射との分離のために,放射の光学変調の研究を実施した.変調用の素子に計算機で設計したパターンを表示し,能動的な変調をおこなうものである.当初は常温域の温度計測のために,それに対応した熱赤外域における放射を対象としていた.しかし,その素子で熱赤外域の放射を変調するためには,素子自体の改造が必要であることがわかった.さらに,改造によって素子自体の性能が劣化する恐れもあった.そこで,対象とする波長域を可視・近赤外域へと変更した.この波長域であれば,必要な能動的な変調用の素子が存在するからである.波長域は異なるが,得られた成果は,将来的に元の波長域に対応した素子が実現した際に適用できる.計測系はこれまでに開発した光軸方向の空間コヒーレンス計測のための干渉計を基にして構築した.パターン表示と,物体の変調結果を調べた. 一方で,現状でも熱赤外域の放射を変調するための研究も実施した.計算機のパターン表示による能動的な変調ではなく,レンズやミラーなどの従来の光学素子を用いた受動的な変調である.そのため,熱赤外域でも実現できる.これによる空間コヒーレンスの計測と像の再構成(復号)の原理を考案した.先述の能動的な変調では,変調した放射を撮像素子を用いた二次元一括の計測・復号であるのに対して,この受動的な変調では,フォトダイオードなどによるスポットの逐次計測をおこなう.しかし,これら従来の光学素子であっても,その一部はCOVID-19による供給不全により入手が困難であった.そのため,この研究も干渉計は可視・近赤外域で構築し,計測実験を実施した.Michelson干渉計を基にした干渉計を構築し,空間コヒーレンスの異なる複数種類の光源について計測実験をおこない,その結果の違いを比較した.異なる空間コヒーレンス状態でも,放射源の再構成が可能であることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画とは波長域は異なるものの,干渉計は構築でき,パターン表示による制御と計測はできるようになった.また,それとは別の原理に基づく空間コヒーレンスの計測用の干渉計も構築し,計測実験もおこなえている.一部光学素子はCOVID-19による供給不全により入手できていないが,現状入手できる光学素子で可能な計測実験は実施できており,原理検証には問題ない.以上からおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画どおりに,背景放射のフィルタリングと,それに伴い変調された放射の空間コヒーレンスから元の熱放射源像へと復号する処理の研究をおこなう.所望の熱放射源と,背景放射を模した光源を用意し,それぞれで振幅変調または位相変調をおこない,空間周波数領域でどのように分布するかを調べる.それが熱放射源に依存するならば,それに対応した最適な変調のパターンを設計する.これによって,分離された熱放射源の信号を元の画像へと復号する.制御方法は既知であるので,それに基づいたデコンボリューションをおこない復号する.または,基準光源を用いてシステム全体の応答を取得し,その情報を用いた復号処理をおこなう.同時に,本年度提案した受動的な変調のみで実現できる空間コヒーレンス計測の研究も進める.背景放射との分離のために,熱放射源と取得した信号の関係を調べる.その後は,温度計測のために必要な放射輝度への変換についてを検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
必要とする光学素子等の入手がCOVID-19による物品の供給不全により入手が不可能になったため.業者が対応可能になり次第,調達する予定である.
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