研究実績の概要 |
CFRPに代表される直交異方性弾性板材を伝搬する数十kHzから数百kHzの低周波ラム波による波動場における面外方向の変位と互いに直交する一対の面外せん断歪みに着目し, 直交異方性弾性板材を伝搬する低周波ラム波がLp距離空間で近似できることをしめし, そのグリーン関数を求め微小欠損を取り囲む近接場解の定量的な評価を実現することを目的として, 研究を実施した. CFRPでは, 炭素繊維に双方向の波面の伝搬速度がはやく, そうでない向きは遅くなる. そのため直交する方向炭素繊維で強化されたCFRPでは, 点波源から, 菱形(正確には超楕円形状)の波面が広がることが観測されている. そのため伝搬遅延時間にもとづく超音波探傷法では, 正確に損傷の位置や形状を特定することが不可能である. そこで本年度は, 欠損および剥離を含む直交異方性薄板材表面の弾性波動場をLp距離空間で表現し, 点波源拘束偏微分方程式を導出した. よく知られている, 二次元のユークリッド距離空間では二点間の距離が, x座標の差の2乗とy座標の差の2乗の和の平方根で得られる. それに対して, Lp 距離空間では, x座標の差のp乗とy座標の差のp乗の和のp乗根で得られる. 1<p<2 のLp距離空間での波動場では, 点波源から超楕円形状の波面が伝播することが導出された。そこで, Lp距離空間での点波源拘束偏微分方程式にもとづき, 点波源のシルエット像再構成を実現した。さらに, 数値モデルを用いて, 多層CFRPを模擬し, 人工的に作成した欠損に対して点波源拘束偏微分方程式にもとづく欠損検出手法を適用し, その妥当性を評価した. 同時に, 現有の表面変位観測装置を用いて, 人為的に作成した表面下欠損のシルエットの再構成をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では(1)現有の表面変位観測装置人為的に点波源を作成し, 試料表面を2次元走査し, CFRP薄板(異方性材料の代表)を伝搬するラム波の面外変位をサブミクロンオーダーで計測する.(2)計測値から, 面外変位の時間微分および面外変位の勾配ベクトルを算出し, それらから, 点波源拘束偏微分方程式を実験的に導出する.(3) 同時に, CFRPを模擬する数値モデルを作成し,マトリックスと炭素繊維の相互作用を明確にし, なぜ長楕円形状の波面が伝搬するのかその仕組みを明らかにし, これらの実験および数値実験結果にもとづき, CFRP薄板を伝搬するラム波の波動場が$L^p$距離空間を構成していることを実証し, 当該波動場におけるグリーン関数を導出する, と記述されている. おおむね計画通りに研究が進んでいると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
とくに大きな変更はないが, CFRPに発生した傷の深さによる散乱波の振る舞いの違いを模擬し, 3次元的な欠損検出を実現するため, より信頼性のある数値実験環境が必要と考えている. そこで, あらたにLSDYNAに代表される, 数値実験ソフトウェアのライセンスを受けようと考えている.
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