研究課題/領域番号 |
21K04099
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90295577)
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研究分担者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 持続的注意 / 機能的神経ネットワーク / fNIRS / 固視微動 / 認知機能リハビリテーション |
研究実績の概要 |
本研究では,注意統制課題遂行中のfNIRS信号と固視微動の解析に基づき,持続的注意に関与する情報処理過程を客観的に捉える手法を開発し,認知機能リハビリテーションへの応用を検討することを目的とする.そのための基礎研究として,2種類のキューを持つ周辺ターゲット検出課題による注意統制実験を実施する.モニタ中央の注視視標が一定時間の後に赤か青の+か×に切り替わる.その後,予め左右に提示されたボックスの一方が45度傾斜し,最後に左右いずれかのボックス内にターゲットが提示される.このような視覚刺激に対し,「注意維持課題」と「注意割込課題」の2条件を設ける.「注意維持課題」では,被験者に注視視標が赤の+か青の×であれば右,その逆の組み合わせで左にターゲットが提示されることを予め教示し,注視視標の意味する方向に能動的に注意を向けさせる.「注意割込課題」では,注視視標の意味を解釈せずにターゲットを検出するよう教示し,傾きが変化するボックスに対して注意を誘導する.いずれの条件も,被験者が受け取る視覚情報は完全に一致することから,本課題により,意図的に注意を維持する場合と,突発的に注意が奪われた場合との直接的な比較が可能となる.
令和4年度は,先述した両課題に対して眼球運動計測実験を行い,注視中に不随意に生じる固視微動の解析に基いて,注意の統制が想定通りになされているのか否かの検証を行った.注意機構と密接に関係することが知られているマイクロサッカードを評価指標として,その発生頻度と発生方向を分析した.その結果,両課題ともにマイクロサッカードの発生頻度には明確な差異が認められず,注意の方向とマイクロサッカード方向との間にも関係性は認められなかった.タスクに伴う変調が確認されたことから,注意の統制そのものは可能であるものの,より強固に注意を統制するためには,実験課題の修正が必要となることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における令和4年度の計画では,2種類のキューを持つ周辺ターゲット検出課題によって「注意維持課題」と「注意割込課題」の2条件を設け,それぞれの条件下において眼球運動の計測を実施し,固視微動の解析に基いて,特定の場所に持続的に注意を向け続けている状態か,注意が周辺視野の変化に奪われた状態か否かを定量的に評価することを目指していた.「研究実績の概要」に記したように,これらの計画に沿って眼球運動計測実験を実施し,得られた固視微動データからマイクロサッカードを抽出して評価を行った結果,両課題において,マイクロサッカードの発生頻度や発生方向には,明確な差異は認められなかったものの,タスクに伴う変調が確認されたことから,注意の統制そのものは可能であることが示された.このことから,研究の目的を達成するためには,実験課題を修正する必要があることが示唆された.これらの成果は,令和4年7月に開催された日本神経科学学会大会,および,令和4年10月に開催された電子情報通信学会ヒューマン情報処理研究会において発表した.
以上のように,令和4年度は当初の計画通りに成果をあげることができたことから,研究課題はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,持続的注意の統制に寄与する脳領域の推定,および,その機能的な神経ネットワークを客観的に評価に基いて,認知機能のリハビリテーション手法を確立することを目的とする.令和4年度に実施した固視微動の解析の結果,実験課題の修正が必要であることが示唆されたために,最終年度は新たな実験手法を検討し,fNIRS計測および眼球運動計測を実施して,その妥当性の評価する.先述した実験課題下における固視微動を解析した結果,いずれの課題においても,マイクロサッカードの発生が一時的に抑制され,その後,増加に転じることが確認されたものの,両条件間には明確な差異を確認することができなかった.マイクロサッカードの発生方向においても,両条件間には統計学的に有意な差異は認められなかった.マイクロサッカードの動的特性における注意機構による影響は,アイコニックメモリ上の視標にアクセスさせるような課題において,より明瞭な効果を示すことが報告されている(Liu et al. 2022).すなわち,視覚刺激の提示を停止した状態の方が,強い効果が現れることが期待される.本研究で採用した実験課題では,課題遂行中,常にターゲットの提示位置を表す正方形が周辺視野に表示されていたことから,これが注視を維持するための妨げとなっていた可能性が考えられる.そこで最終年度では,周辺視野の正方形を非表示とするように実験課題を改良し,このときのfNIRS信号および眼球運動を計測して,過去の結果との比較を行う.その成果に基いて,注意のダイナミックな変動に対応した脳活動の特徴を抽出し,これにより注意機構の情報処理過程の可視化,および,そのメカニズムの推定を行う.これらの成果を統合することにより,持続的注意の統制に寄与する脳領域を推定し,注意維持に関わる認知機能のリハビリテーション手法を検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には,令和4年度に国内および海外での研究発表を計画しており,そのための「旅費」として150,000円を,実験補助や被験者等の報酬として「人件費・謝金」に50,000円を計上していた.新型コロナウィルスの影響により,学会がオンライン開催となり出張費の支出が予定よりも少なく,実験計画にも制限が生じたために,謝金の消化も予定を下回った.これらの理由により,次年度への繰り越しが発生した.繰り越し分は,計測器用ホストコンピュータのメモリやストレージの増強のための部品代としての「物品費」,当初予定からの被験者数増による「謝金等」,学会等の出張のための「旅費」とし,今年度予算と併用して使用する予定である.
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