研究課題/領域番号 |
21K04112
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
足立 修一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40222624)
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研究分担者 |
丸田 一郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20625511)
川口 貴弘 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (00869844)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非線形システム同定 / 深層学習 / 周波数 / 制御 / モデル縮約 |
研究実績の概要 |
AIの分野で活発に研究されている機械学習の中心的なテーマは「深層学習」であり,特に,画像認識や自然言語処理において優れた研究成果が報告されている.AI の得意分野が明らかになってきた一方で,まだ研究が十分でない分野もある.その一つが制御理論で対象としている動的システムである.機械学習を制御理論の専門用語で表現すると非線形動的システム同定になる.この非線形動的システム同定問題において,線形制御理論で重要な「周波数」を活用することが本研究のポイントである.また,機械学習で研究されている問題を制御理論の枠組みで解釈し,新たな知見を得ることも本研究の目的である. これまでシステム同定の主な対象は線形動的システムであり,線形性という利点のために周波数という時間や空間以外の仮想的な特徴量を用いることができた.それに対して,複雑な非線形システムを対象とする機械学習では,これまで周波数を利用することは陽には考えられておらず,時間や空間といった現実世界でのモデリングが行われていた. 今年度は昨年度に引き続いて,多数のパラメータを含む深層ニューラルネットワーク(DNN)のモデル縮約についての理論検討と,いくつかの例に対して数値シミュレーション実験を行った,本研究では,計算負荷を切り替え可能な DNN を1回の学習で構築する方法を提案している.この方法は,計算負荷を容易に切り替え可能とするためのモジュール化されたモデル構造と,その構造に適した学習法で構成されている.そして,代表的な縮約化非線形システム同定問題に適用した.提案した非線形システム同定法を非線形 Linear Fractional Representation モデルに適用した。さらに,提案法を非線形システム同定の別の問題に適用して,その有効性についての検討を引き続き行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3名の研究者が分担・協力して,非線形動的システム同定についての理論的検討とその実用化検討を行っている. まず,理論面では,(1) システム同定入力の設計(担当 足立,丸田,川口),(2) システム同定モデルの回帰ベクトルの選定(担当 足立),(3) DNN を用いた非線形システム同定(担当 川口,足立),(4) 非線形閉ループシステム同定法(担当 丸田,川口,足立)を研究対象としており,今年度は,昨年度に引き続いて,特に(3)の DNN を用いた非線形システム同定についての理論研究を行った. 通常は,慶大,京大,群馬大をネットで結んでオンラインでディスカッションを行っているが,学会などで一堂に会した際に,時間を設けて研究ディスカッションを行った。研究成果を国際学会で発表し,また別の国際会議発表論文も投稿し採択された. 応用面ではつぎの3つの実問題について検討した.(1) ガソリンエンジンの吸排気システムのモデリング(担当 足立),(2) 電気自動車の二次電池のモデリング(担当 足立,丸田,川口),(3) 鉄鋼圧延プロセスのモデリング(担当 足立,川口).この中では特に(2)の研究では,定期的に3名でオンラインミーティングを開き,実システムの非線形モデリングに対するディスカッションを行い,二次電池の状態推定のための非線形モデリングについての実際的な検討を続けている.また,(1)のガソリンエンジンのモデリングについては,システム同定入力の設計について実用的な方法を提案し,実エンジンで得られたデータに適用してその有効性を示した.さらに,(3)の課題に対しても,実システムの非線形現象を考慮したモデリングを検討している.
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今後の研究の推進方策 |
理論面においては,本研究で提案したモジュール構造をもつ DNN のモデル縮約法に関する研究をさらに進めていく.特に,多数のパラメータをもつ複雑な DNN を縮約することにより,説明可能な深層学習への一つのアプローチを見出したい.また,提案法の非線形動的システム同定法の理論検討を続ける.その中で,「時間と空間」につぐ「周波数」のような新たな特徴量を用いたモデルの解釈法を考えていく.この研究は,複雑な深層ニューラルネットワークの説明可能性に対する一つの解決策につながっていくだろう. また,非線形性を含む閉ループシステムの同定問題に対する研究を行う予定である.この問題は,鉄鋼業の圧延プロセスのような実問題を想定しており,実システムに存在するさまざまな非線形性を考慮した非線形システム同定法の開発を目指す. 実問題については,2つの実問題について引き続き検討を続けていく.(1) 電気自動車の二次電池のモデリングについては,ヒステリシスのような非線形性が強い電気化学反応から構成される二次電池のモデリングを行う.(3) 鉄鋼圧延プロセスのモデリングについては,理論研究のところで述べたように,閉ループシステムの非線形システム同定問題の検討を続けていく. さらに,本研究の総まとめとしてシステム同定の実用的な書籍の出版の準備も進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19 下の行動が制限される状況が続いているため、予定していた国外出張が実行できなかった。次年度の学会参加費として使用したい.
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