研究課題/領域番号 |
21K04122
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
菊植 亮 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (90362326)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 産業用ロボット / 協働ロボット / 微分包含式 / 力制御 / 位置制御 |
研究実績の概要 |
今日の産業用ロボットの多くは専用のサーボアンプで制御されており,上位計算機からの位置指令にもとづいて動作する.これらは技術的にもコスト的にも成熟しているが,力の制御が必要な人間中心環境での応用には不向きである.本研究では,トルク指令型の従来制御技術群を改変し,産業用位置制御デバイスへの実装を前提とした「位置指令型スライディングモード制御」の実用技術群と基盤理論体系を創出する. 2021年度より位置・速度指令型の商用協働ロボット(Universal Robots社製UR3e)をテストベッドとして研究を行ってきた.専用コントローラからのフィードバック信号には大きな遅延があり,通常のアドミッタンス制御技術を適用すると容易に不安定化するということが分かっていた.2022年度には,指令位置の1階微分から3階微分に対して適切なリミッタをかけることによって,不安定化や振動の発生を抑える手法を確立した.これに付随する各種理論を整備し,学術論文を1本投稿した. さらに,位置制御方式のクレーンシステムの制御についても,2021年度より,小型のクレーン実験装置を用いて研究を行ってきた.クレーンについては,ロボット制御と同様の速度・加速度リミッタと,有限時間で積分項をゼロに収束させる不完全積分器を用いた新しい制御手法を確立した.この手法を用いることで,人間が位置指令を自由に与えて操作可能でありながら,吊り荷の揺れを素早く減衰させることができるクレーンシステムを実現できる.このテーマについての論文は2022年度中に投稿し,2023年4月に採録が決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は下記の通りである. * アドミッタンス制御において,指令速度・指令加速度・指令躍度(それぞれ指令位置の1階,2階,3階微分)にリミッタを設けることによって不安定化に起因する振動を抑制する手法を考案した.これらのリミッタを含む制御則は,微分包含式として表現されており,陰的オイラー法により離散化され,実装される.アドミッタンス制御においては特に,指令加速度が大きいときには指令躍度の上限を小さくするように設定することで,低周波の振動と高周波の振動の両方が抑制されることが分かった. * 指令値の微分値に制限を設けた際に残る振動を考察するために,記述関数法に基づいたアプローチを考案した.構築した制御器は非線形かつ非平滑であるが,その記述関数は定義することが可能である.その数学的性質にもとづいた考察により,本来不安定なアドミッタンス制御器に加速度・躍度のリミッタを付加することによって,発散が防止されてリミットサイクルが発生することが理論的に導かれた.また,このアプローチが.リミットサイクルの振幅や周波数を予測する手法として発展可能であることが示唆された. * 加速度・躍度制限が設けられたアルゴリズムは,パラメータ設定によっては解を持たないことがあるが,解が存在するパラメータの設定範囲を連立不等式から解析的に導くことができた.解の存在性・唯一性は,微分包含式で表現される制御則の妥当性(実現可能性)のための必要要件である.2023年度には,より一般化した枠組みでの理論構築を行う計画である. * 位置制御される天井クレーンの制御において,速度・加速度リミッタと不完全積分器を設ける手法を確立した.不完全積分器は非リプシッツな関数を用いたフィードバック項を持つものであり,これにより,位置誤差を有限時間でゼロに収束させることができる.この制御則について実験と安定性解析を行い,学術論文を出版した.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には,アドミッタンス制御則の作業空間(三次元空間での手先の位置・姿勢を用いた表現)への拡張を行う.振動抑制のための加速度・躍度リミッタは関節空間で設ける必要があると予想されるが,外力への応答を規定する仮想物体の運動方程式は作業空間で定義することが実用的観点から都合がよい.これらを両立するために,数学上の様々な未解決問題が浮上すると考えられるが,2023年度にはこれらを解決することを目標とする. また,2022年度に構築した加速度・躍度リミッタを含む力制御の手法を非平滑システム理論の観点から再度精査する.離散時間表現を用いた解の存在性の議論を,連続時間領域で再構築する必要がある.また,記述関数法をベースとしたリミットサイクルの発生条件を再考し,加速度・躍度リミッタの設計によってリミットサイクルの振幅を最小限に抑える方策を理論的に導くことが必要である.これらの理論的考察をまとめた論文を執筆する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会における成果発表よりも,完成度の高い雑誌論文執筆を優先したため,旅費の支出が当初の想定よりも少なくなった.生じた次年度使用額は,現在査読中の論文のオープンアクセス掲載料として支出する計画である.
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