2023年度においては,これまでに考案した一次元のアドミッタンス制御則を多次元に拡張した.6自由度ロボットにおいてアドミッタンス制御を実現するためには,一次元のアドミッタンス制御器を各軸に独立に実装するという手法が考えられる.しかしこの実装方法では,外力が手先に加えられた際に,外力の方向に手先が動くとは限らない.この振る舞いは,ティーチングなどの用途の際には不都合である.この問題に対応するために,作業座標系でロボットの手先の動特性を規定し,時間遅れに対してロバストな,多次元のアドミッタンス制御器を構築した.この手法は,関節座標系において躍度・速度・加速度の制限を施した上で,作業座標系で仮想物体の運動方程式を実時間で積分するものである.また,安全性の担保のために,作業座標系においては並進速度制限のみを施している.仮想物体の位置・姿勢は逆運動学で関節角度指令に変換されるが,速度・加速度・躍度制限を施した後の値は順運動学で作業座標系に再度変換され,仮想物体の位置・姿勢が修正される.本手法によって,作業座標系で安定した力制御(アドミッタンス制御)が可能になった.この成果は2023年の日本ロボット学会学術講演会で発表済みである. 2021年度からの研究期間全体を通じて,無駄時間を含む商用位置指令型ロボットにおいて安定した力制御を実現できた.構築した手法は従来のスライディングモード制御を拡張した考え方にもとづくものであり,微分包含式で記述され,後退オイラー法により実装される.これにより,状態量やその微分量を明示的に制限し,指令位置を出力とする,新たなメカトロニクス制御技術群の基盤が得られたといえる.
|