研究課題/領域番号 |
21K04124
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
池田 建司 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (80232180)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 雑音共分散行列 / 部分空間同定法 / 閉ループ同定 / 半正定値計画問題 / 正準相関解析 / 最良線形不偏推定量 |
研究実績の概要 |
筆者らが提案している雑音共分散の推定のためのSDP(semi-definite programming, 半正定値計画)問題に対し,推定値の共分散を小さくすることを目的としてCCA(canonical correlation anaysis, 正準相関解析)に基づく重み行列を導入した手法を提案した.提案手法と閉ループ部分空間同定法において最先端と言われているPBSID(predictior-based subspace identification)法を数値例により比較し,PBSID法に匹敵する,あるいは,より高性能な結果を得た. つぎに,このCCA重み行列の最適性を示すことを目的として,SDP問題と等価な問題を導入し,その問題に対するBLUE(best linear unbiased estimate, 最良線形不偏推定量) を導出した.いくつかの状況におけるBLUEが提案されているが,我々が考えている線形回帰式は全体に直交射影行列が掛け算されているという特殊な形をしているため,従来のBLUEを直接適用することは出来ない.そこで考察している線形回帰式に対するBLUEを新たに導出した.このBLUEは提案法の有効性を示すことを目的として導出された派生的な結果ではあるが,理論的な貢献として一般に利用可能な結果である. CCA重み行列付きの提案法とBLUEの推定精度を数値的に比較することで,提案手法の有効性を数値的に確認した.理論的な解析は今後の課題である.提案法は数値的に安定な手法を用いているが,今回導出したBLUEは係数行列のサイズが非常に大きく,数値的安定性を考慮すると実際に使用するには適していないと考えられ,解析のために用いるべきと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の実施計画では,2021年度は,SDP(semi-definite programming, 半正定値計画)問題を用いたイノベーションモデルの一致推定(基盤研究(C) 課題番号15K06146)を閉ループ同定に拡張すること,(2)gapに基づく誤差解析(基盤研究(C) 同上)を使ってClosed-Loop MOESP法や提案手法の誤差解析を行うこととなっている.また,2022年度には,CCA(canonical correlation analysis, 正準相関解析)に基づく重み行列の導入と,その最適性に関する理論的・数値的解析を行うこととなっている. 2021年度の当初計画にある(1)閉ループ同定への拡張,(2)誤差解析の一部((A,C)行列の誤差解析),2022年度のCCA重み行列の導入とその最適性に関する解析の一部を達成していたため,研究はおおむね順調に進展していると考える.CCA重み行列の最適性に関する解析は,現在までのところ数値的な解析であり,理論的な解析はまだ完了していないが,我々が考えている問題に対するBLUE (best linear unbiased estimator 最良線形不偏推定量)を導出できたことにより,理論的な解析の可能性が見えてきた.
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今後の研究の推進方策 |
まず,2021年度にやり残した,システム行列の推定値の誤差解析を実施する.閉ループ環境では,拡大可観測性行列の推定値は漸近バイアスを持ってしまうので,分散の解析だけでなくバイアスの解析も必要である.提案法における拡大可観測性行列の推定値はClosed-Loop MOESP法におけるものと同じである.この拡大可観測性行列の漸近バイアスについては既にある程度解析が進んでいる.分散解析についてはgapに基づく誤差解析(基盤研究(C) 課題番号15K06146)を適用することで,推定誤差の具体的な公式を導くことができるのではないかと考えている.提案手法の推定精度を保証するためにはこの解析が不可欠である. CCA重み行列の最適性については過年度数値的に確認できているが,理論的な解析はまだである.考察している問題に対するBLUEが導出できているので,BLUEにおける重み行列とCCA重み行列とを比較することで理論的に最適性を証明できないか試みる.このCCA重み行列の最適性解析ができると,雑音共分散行列の推定値の誤差解析も可能になると思われる.上記のシステム行列の推定値の誤差解析と合わせて,推定値の精度保証に役立てたい. 2023年度実施予定であった不安定システムの同定可能性についても,並行してその準備を進めたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際会議(1件),国内会議(2件)が遠隔実施となったため,旅費がシステム同定に関する研究会のみになってしまったため,次年度使用(251,290円)が生じた. 2021年度当初の予定では,令和4年度は,物品費200,000円,旅費300,000円, 人件費・謝金100,000円としていたが,次年度使用分から旅費に100,000ほど割り当てて,残りをその他(Matlabライセンスなど)に割り当てる予定である.これは円安やウクライナ情勢のため航空運賃が高くなることが予想されるためである.もし国際会議が遠隔実施になった場合は,物品費を増やしてノートパソコンなどを購入する予定である.
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