研究実績の概要 |
初年度(2021年度)には、閉ループ環境における雑音共分散行列の推定のための半正定値計画(SDP, semi-definite programming)問題を定式化した。また、CCA重み行列を導入した提案法は、現在最先端と言われるPBSID (prodictor-based system identification) 法と同等、あるいは、それ以上の性能を持つ可能性があることを数値的に示した。2022年度前半にかけては、提案している雑音共分散行列推定問題と等価な制約付き最小二乗問題を導出し、さらに、その問題に対する最良線形不偏推定量(BLUE, best linear unbiased estimate)を導出した。導出された BLUE の標本共分散行列の大きさと提案法における推定値のそれとを数値的に比較することによって、提案法はBLUEとほぼ同等の性能を持つことがわかった。 2022年度の後半では、推定パラメータの誤差解析、および、分散解析に取り組んだ。当基盤研究(C)の研究目的である精度保証付き閉ループ部分空間同定法の開発の中核となる課題である。拡大可観測性行列の不確かさの解析では、gapに基づく誤差解析(基盤研究(C)課題番号15K06146)を応用した。推定値の不確かさは雑音の大きさに依存するため、求めた雑音共分散行列から、推定されたシステム行列の共分散行列を推定する方法を提案した。また、その結果をもとに周波数領域での不確かさを推定し、Bode線図上で提示する方法を提案した。提案したシステム行列の共分散行列や周波数領域での不確かさは、一組の入出力データから計算可能であり、多数の同定結果から求める標本共分散行列のように何組もの入出力データは必要ない。同定の際に、推定されたシステム行列と共にその不確かさを提供することが可能となった。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年8月22日--25日にイタリアトリエステでハイブリッド開催されたCCTA2022(6th IEEE Conference on Control Technology and Applications)に出席予定であったが、下記の理由により、遠隔での参加に切り替えた。まず、当時はまだ、新型コロナウイルス感染症への水際対策として、出発国を出国する72時間以内に検査を受け陰性の検査証明書を取得しなければならず、翌週に大学院入試を控えていて入国延期になる危険を冒すことができなかった。また、新型コロナウィルス感染症とウクライナ情勢により航空運賃が高騰し、当時探した範囲では航空運賃が科研費の予算を超えたため、航空券を購入することができなかった。以上の理由のため、次年度使用(660,715円)が生じてしまった。当初の予定では、物品費200,000円、旅費300,000円、人件費・謝金100,000円としていたが、航空運賃の高騰がいつまで続くかわからないため、次年度使用分から旅費に300,000円ほど割り当てる。また、円安の影響でノートパソコンやMATLABライセンス料などが上がっており、次年度使用分の残りを物品費160,715円、その他200,000円(MATLABライセンスなど)にそれぞれ割り当てる予定である。
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