研究課題/領域番号 |
21K04125
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
延山 英沢 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50205291)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 制御系設計 / ノンパラメトリックモデル / むだ時間 / ロバスト制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,有限個周波数応答モデルと呼ぶノンパラメトリック表現を用い,最適化に基づく制御系設計法を開発することを目的としている.この目的の下,2023年度は,これまでに提案した設計法の拡張や新しい設計法の提案を行い,国際学会1件,国内学会4件の論文発表を行った. 国際学会では,PID制御器を用いた場合の有限個周波数応答モデルを用いた新しい制御系設計法を提案した.これまで我々の制御系設計ではモデルマッチングという制御指標を用いて凸最適化に帰着させるという手法を用いていたが,本研究ではモデルマッチングを用いない制御指標を新たに導入し,外点法の考え方を用いた繰り返し最適化法による制御系設計法を提案した. 国内学会では,国際学会で発表した成果とは別の四つの研究成果を発表した.一つ目は,有限個周波数応答モデルを用いることの特徴である,むだ時間系に対して適用可能であるという点を整理し,むだ時間が変動する場合に対するロバスト性への対応を含めた制御系設計法を提案した.二つ目は,これまで凸最適化に帰着させるために保守的な十分条件を用いてきたが,エネルギー関数という概念を導入してその保守性を緩和する制御系設計法を提案した.三つ目は,前年度に連続時間系に対して提案した時間領域の望ましい応答を直接得るための制御系設計を離散時間系の設計法へと拡張した.連続時間系では時間応答を計算するのに逆ラプラス変換を用いていたが,離散時間系では差分方程式の解として時間応答が求まることより,より計算が容易な設計法となっている.四つ目は,それまでの制御系設計では極の位置を考慮しない安定性条件を用いていたが,その設計法を閉ループ極の存在領域をあらかじめ指定できる設計法へと拡張した.閉ループ極は時間応答と密接な関係があり,その存在領域を指定できることは良好な時間応答を達成することに繋がる設計法となっている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,研究代表者らが開発してきた有限個周波数応答モデルと呼ぶノンパラメトリック表現を用いた制御系設計法において,これまでの手法の改良や新たな設計法の提案を行うことである. 最初の年である2021年度は,PID制御器を用いた制御系設計において,保守的な評価となる安定条件を緩和する設計法等についての成果を得るものであった.2022年度では,制御器をPID制御器に限らず,もっと次数が高い一般的な固定次数の制御器を用いた場合の制御系設計を提案した.特に,それまで制御対象の安定性を仮定していたものを制御対象が不安定な場合においても適用できるように拡張したことが大きな発展であった.その提案手法では,制御器の安定性も保証することが可能であるだけでなく,制御器が最小位相系であることをも保証することが可能な制御系設計となっている.制御器が安定かつ最小位相系であることは実用的には大変重要な性質であり,この提案法は本研究における主要な成果の一つであると言える. 続いて2023年度には,2022年度に得られた成果をさらに発展させることができた.むだ時間系に対する系統的な取り扱い,保守的となりがちな安定性条件の緩和方法,安定性だけでなく閉ループ極の存在領域を指定する方法など,2022年度に得られた成果をより実用的にするための設計法の改良等を実施することができた.これらの成果は安定な固定次数制御器の設計法の確立を目指すという本研究の目的に対して確かな進捗をもたらすものであると言える. さらに,2022年度に得られた連続時間系に対する望ましい時間応答を直接達成するための数値最適化による制御系設計法を離散時間系の場合に拡張することができた.これは当初の研究計画にあった「時間応答性の直接的設計法の開発」という目的をほぼ達成するものであり,この成果も本研究が順調に進捗していることを示すものである.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,これまで提案してきた安定な固定次数制御器の設計法を離散時間系の場合に発展させることと,今年度までに提案した望ましい時間応答を直接達成する設計法と有限個周波数応答モデルの利点を合わせた拡張を進めていく.具体的には,次のように進める. 連続時間系に対して設計した制御器はサンプル・ホールドして離散化することにより実装されるが,その離散化の影響により連続時間制御器で達成できた性能が劣化することが多くの場合に生じる.そのため,最初から離散時間系の制御器を設計することが有効に働くことが多い.そこで,本研究においても,これまで提案してきた連続時間系である安定な固定次数制御器の設計法を離散時間系の制御器を設計する方法へと発展させる.連続時間系の場合と離散時間系の場合の大きな違いは安定性条件であるが,離散時間系の場合への拡張をするにあたり,新たな安定性判定条件を検討していく.その安定性条件が得られれば,離散時間系としてのモデルマッチング問題等と合わせ,凸最適化問題として表される離散時間系での設計法を提案していくことが可能となる. さらに,今年度までに開発した時間応答を直接考慮した設計法を有限個周波数応答モデルの利点を利用する観点から以下のように拡張させていく.まずは,閉ループ系のロバスト安定性を確保する方法への拡張を検討する.ロバスト安定性はあるノルム条件で表現することが可能であり,その条件を有限個周波数モデルを用いて近似し,これまで提案してきた設計法に組み合わせることを検討する.さらに,これまでの安定性条件は非凸な条件を用いていたのに対し,有限個周波数モデルを用いた凸の安定性条件を組み合わせて拡張することを検討していく.これらの拡張が達成できれば,周波数領域と時間領域を同時に考慮した新たな設計法が提案できることとなる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究が始まった2021年度からはまだ新型コロナウイルスの影響が強くあり,ほとんどの学会がオンライン開催であり,ようやく2023年度から通常の対面開催が行われるようになった状況である.また,その間,他大学への研究打ち合わせや研究会などの出張も同様に憚られるものであった.そのため,当初の2年間に計上していた旅費がほぼそのまま残ることとなった. 本研究の進捗状況は順調で,当初の計画以上の成果を達成できる見通しも出てきたこともあり,研究期間の延長を行った.そのことを見据え,次年度に繰り越される予算は,最終年度として成果をまとめるにあたり,積極的に共同研究者との打ち合わせや国内外での学会への参加を行うための出張旅費等で使用する予定である.
|