研究実績の概要 |
令和4年度においても前年度に引き続き、CuxAg1-xGaS2(CAGS)半導体結晶の育成を中心に行った。前年度の垂直ブリッジマン法による結晶成長では、育成した結晶の組成の不均一性が問題となっていた。そこで令和4年度においては新たにボールミルを使用した結晶の育成を試みた。まず、Cu, Ag, Ga, Sを化学量論的に秤量し、ジルコニア製のボールと共にポットに入れた。次にオーバーポット方式の雰囲気制御容器に入れ、真空引きを行った後にアルゴンガスで充満した。アルゴンガス雰囲気下にした容器を遊星ボールミル装置にセットし、回転数を400~800 rpm、回転時間を1~3 hとして結晶の育成を試みた。 まずCu組成xが零となるAgGaS2(AGS)において遊星ボールミルによる作製を行ったところ、目視にて黄色の一様な粉末が得られた。X線回折(XRD)測定を行ったところ、多くの回折ピークが得られたが、それらは報告されているAGSのPDFデータと良い一致を示した。このことから、得られた粉末はAGS結晶であることがわかった。しかし、400 rpmにて作製した試料においてはAGSのPDFデータには無いピークも同時に観測され、それらは未反応のAg等であることがわかった。均一なAGS結晶を得るためには、800 rpmで2 hの反応が必要であることがわかった。 一方、得られた粉末状結晶のXRDスペクトルは、垂直ブリッジマン法で得られた結晶のスペクトルに比べ、ピークの半値幅が大きく、回折強度も小さかった。これは結晶性が悪いことが原因と考えられた。このため結晶のアニール処理を試みた。300~800度にて10分間アニールを行った結果、温度の上昇と共にXRDスペクトルにおいて回折ピークの強度が増し、ピーク半値幅も減少した。700度におけるアニールが結晶性の向上に有効であることがわかった。
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