研究課題/領域番号 |
21K04135
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
塩島 謙次 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (70432151)
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研究分担者 |
橋本 明弘 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (10251985)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電極 / 界面顕微光応答法 / 2次元評価 / ワイドバンドギャップ半導体 |
研究実績の概要 |
本研究課題では我々が独自に開発した金属/半導体(M/S)界面の2次元評価法(界面顕微光応答法)をワイドバンドギャップ半導体上に形成した電極の電流輸送機構の解明に適応できることの実証が目的である。これまではショットキーM/S界面の2次元評価を室温で行ってきたが、低障壁で低抵抗なオーミック電極に対して低温での測定が行えるよう装置を改造し、低ノイズで高感度な光電流検出を提案している。また高電界印加での測定も試みる。さらに、新規な材料として未結合手をもたないグラフェンやBN等の2次元超薄膜を界面に介在させた電極構造においても検討を行う。 R3年度は400℃~液体窒素温度まで温度可変が可能なステージを使用する第一段階として、内部光電子放出測定(photoresponse: PR)装置との接続を行なった。光学系、機機械系、および測定ソフトの改造を行なった。広い温度領域での測定において、試料との電気的な接続確認、ビューポートの曇り防止、および試料の膨張等の測定系の安定性も検討し、測定の基礎データを整えた。低ノイズな電流ー電圧(I-V)測定を行うため半導体パラメータアナライザーを高精度なものに更新した。 試料構造に関しては、これまで100 nm以上の光を通さない厚膜電極を用いてM/S界面に半導体側から単色光を照射(バックイルミネーション)していたが、本検討では温調機能を優先するため電極側から照射する(バックイルミネーション)必要である。そこで、大半の光が透過する薄膜電極を形成し、バックイルミネーション測定が可能かどうかを検証した。 電圧印加測定においては、電極エッジの構造が異なる試料の測定を行った。 グラフェン膜の作製においては、SiC基板を高真空中で加熱する手法を用いた。SiC表面のグラフェン膜を所望の半導体材料に転写するため、Ni印刷電極を用いる新しいプロセスを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PR測定装置本体の分光器からの単色光を温度可変ステージに導入するため、ステージとなるステンレス板にポールを立てて、焦点距離が可変可能な光学系を構築した。電気系では、高精度半導体パラメータアナライザーの導入により、温度可変ステージで100Kまで0.1nA以下の低リーク電流を実現した。 シュミレーションにより可視光域で電極中での透過率が50%となるような薄膜Au(厚さ50nm)/Ni(厚さ50nm)電極構造を設計し、n-GaNエピタキシャル層上に堆積し、ショットキー電極を形成した。 温度可変ステージの低温運転では、プリベークの実施、ビューポートへの窒素ガスの吹き付けにより、100Kまでビューポートの曇りはなく、長時間運転が可能であることを確認した。 薄膜Au/Ni/n-GaN電極に対しI-V測定を 373-173Kの温度範囲で行った。厚膜電極と類似した整流性を示し、順方向特性は熱電子放出理論基づく温度特性を示した。この温度範囲で障壁高さは0.80 -0,98 eV,理想因子(n値)は1.13-1.28で、薄膜電極でも良好な特性が幅広い温度範囲で確認できた。 同様にPR測定も行い、厚膜試料と同様なスペクトルを広い温度範囲で確認した。得られた障壁高さは1.23-1.27 eVであり、I-V特性からの結果とも一致する。本検討での最大の課題であったフロントイルミネーションでの実験成功は、大きな前進である。 Ni/n-GaN電極へのウエットエッチングの影響や、電極エッジの形状評価に関する結果で、国際学会オーラル発表として採択された。さらに、これまでの本手法を用いた研究成果が評価され、ECS主催の国際会議で招待講演、招待論文、応用物理学会先進パワー半導体分科会個別討論会で講師の栄誉を得た。このように本年度の成果は本研究課題の主要な部分を実証するものであり、十分な進捗があったものだと考える。
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今後の研究の推進方策 |
R4,5年度の計画は界面顕微光応答法による2次元観察に注力する。評価材料について、代表的なワイドバンドギャップ半導体であるGaN、SiCにおいては、n形、及びp形の両方の試料に対して各種表面処理(塩酸、アルカリ溶液等)、熱処理実験(1000度C程度まで)、及び温度可変(液体窒素温度から400度Cまで)、高電界印加(外部印加電圧300Vまで)測定を行い、障壁高さが高い電極の場合と比較することで電流輸送機構の解明を進める。n-GaNに対してはAl/Ti電極、p-GaNにはNi電極、n-,p-SiCにはNi電極を用いる予定である。さらに、AlGaN/GaN HEMT構造においてもAl/Ti電極を用いてオーミック形成メカニズムの解明実験を行う。 また、グラフェン介在電極では、Ni印刷電極によるグラフェン層の引き剥がしを検証し、電気的特性の評価を行いその有用性を検証する。 これらの検討は学術的にも価値ある結果が生み出されると考えられるので、学会発表(SSDM,ISCSI、応用物理学会)、論文執筆を積極的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
R3年度開催予定の学会への出張が中止となったため、旅費の支出がなくなった。この旅費は次年度の学会出張に使用する予定である。
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