研究課題/領域番号 |
21K04136
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
原 康祐 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (40714134)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シリサイド半導体 / 近接蒸着 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
BaSi2は太陽電池の光吸収層に適した物性を持ち、資源豊富な元素から成る半導体である。近接蒸着法では、BaAl4+Ni原料から化学反応によって発生するBaガスをSi基板に反応堆積することでBaSi2薄膜を得ることができる。この方法では、通常の気相成長と大きく異なる結晶成長条件のためか、巨大なBaSi2単一結晶方位ドメインが観測されている。また、(001)配向が支配的になることも、他の気相成長法とは異なる。本研究は、近接蒸着におけるBaSi2結晶成長メカニズムを解明し、その知見を元にBaSi2薄膜の結晶ドメインをさらに拡大し、結晶欠陥の影響を受けない物性値を取得することを目的としている。令和3年度は、まず、メカノケミカル効果による成膜温度コントロールを試みた。近接蒸着における成膜温度はBaAl4+Niの化学反応で決まり、これまでは1000 ℃に制限されていた。この成膜可能温度をより低い温度に拡張するために、メカノケミカル処理によりBaAl4+Niを活性化した。その結果、700 ℃まで成膜温度を低温化することに成功した。同時に、メカノケミカル処理時間には最適値があることや、低温で成膜したBaSi2薄膜が明瞭な光導電性を示すことを見出した。そして、成膜温度と結晶ドメイン構造の関係を調べた。また、Si(100)、Si(111)基板上に成膜することで、基板方位の影響も同時に解明することを目指した。その結果、予想に反して、成膜温度、基板方位によらず(100)配向のBaSi2エピタキシャル薄膜が形成した。メカノケミカル処理が薄膜の結晶方位に影響を及ぼすことを示唆する結果であり、今後さらなる調査が必要である。また、成膜温度とドメインサイズの関係を調べるためには、膜厚の影響を合わせて考慮する必要があることが分かり、この点についてもさらなる調査が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近接蒸着法で成膜可能な温度範囲をメカノケミカル処理により拡張するという当初の狙いの1つを達成することが出来た。これによって、BaSi2の成膜温度と結晶ドメイン構造や物性との関係を調べることが可能となった。また、長時間のメカノケミカル処理はBaAl4とNiの準安定な固溶を引き起こすという予期しない現象や、BaSi2薄膜が明瞭な光伝導性を示すことも見出した。さらに、メカノケミカル処理を利用した近接蒸着により、当初計画通り、成膜温度、Si基板方位と結晶ドメイン構造の調査を行った。その結果、(100)配向のBaSi2薄膜が形成するという、予想と反する結果が得られたため、令和4年度も調査を継続する予定である。当初計画の調査に加えて光伝導度の調査を実施し、BaAl4とNiの準安定な固溶という新しい現象の解明も進んだため、当初の計画以上に進展したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に判明した、予期しないBaSi2の(100)配向の要因を詳しく調査することで、近接蒸着におけるBaSi2薄膜の結晶成長メカニズムとメカノケミカル効果の影響に迫っていく。当初計画通り、微傾斜基板を用いることでBaSi2薄膜の結晶ドメインの拡大を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
共用機器を利用した実験が当初の想定より少なく、機器利用料が少なかったため次年度使用額が生じた。実施しなかった実験を次年度に実施し、使用する計画である。
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