研究課題/領域番号 |
21K04139
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
大石 敏之 佐賀大学, 理工学部, 教授 (40393491)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 2端子対回路網パラメータ / 窒化ガリウムトランジスタ / トラップ評価 |
研究実績の概要 |
窒化ガリウム(GaN)を用いたトランジスタなどの電子デバイスは、非常に高い電圧でかつ大電流で動作できる高出力高周波用増幅器などに実用化されている。今後、GaN本来の優れた材料物性をさらに引き出すことができれば、より高性能な電子デバイスを実現でき、社会の持続的成長に貢献できると考えられる。このために解決すべき課題のひとつが、GaN電子デバイス内部に存在するトラップの制御である。トラップは不純物や原子配列の乱れが要因で、結晶内や表面に存在し、電気的特性に影響を与える。漏れ電流を抑制できるという長所がある一方、交流信号を乱すという短所がある。これらの長短所をうまく使いこなすためにはトラップの性質を明確にすることが重要となる。本研究では回路設計と整合性の良い2端子対回路測定を使うことで、トラップの性質を明確にしていく。 これまで2端子対回路測定を構築し、トランジスタに印加する電圧(ドレイン電圧、ゲート電圧)や雰囲気温度依存性を測定し、GaN層中のFe不純物に由来するトラップの挙動を解析してきた。しかし、測定できる周波数に対して、トラップの応答する周波数が広く、十分にトラップの挙動を評価することができなかった。そこで、トラップの挙動をより詳細に解明するため、光を励起して測定する方法を研究するとともに、デバイスシミュレーションを使っていくことを計画している。 今年度は、立ち上げた光励起2端子対回路網パラメータ測定装置にて、光照射の効果、表面ダメージを故意に導入した試料などで評価を実施した。また、デバイスシミュレーションにおいて自己発熱効果によるデバイス内部の温度上昇による効果について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は確立した光照射技術を使って、光照射の効果を検証するとともに表面ダメージを故意に導入した試料の評価を行った。また、デバイスシミュレーションによりデバイス内部で生じる自己発熱効果がトラップの挙動に与える影響を検討した。 光励起では緑色光を表面ダメージ導入試料に照射した。さらに緑色光の有無、表面ダメージ処理の有無で2端子対回路Yパラメータの周波数依存性、ドレイン電圧依存性を検討した。ゲート電圧を接地し、外部バイアスを印可しない状態で評価した。また、この状態でドレイン電圧依存性を測定することで、トランジスタ動作時のトラップ評価という特長が本評価方法にあることを実証した。緑色光を照射すると信号強度が減少することがわかった。また、ドレイン電圧を変えると信号強度とピーク周波数の両方が変化することがわかった。そこで、変化が大きいドレイン電圧に注目して、研究を進めることとした。 デバイスシミュレーションにおいて、Y22のドレイン電圧依存性の物理現象解明を進めた。その結果、主にデバイス内部で発生する熱による温度上昇(自己発熱効果)がピーク周波数変動の要因となることを明確にした。さらにドレイン電圧を増加させると、トラップエネルギーが減少したのち、飽和する傾向を示すことを実験的に見出した。デバイスシミュレーションでより現実的なモデルである熱抵抗の温度依存性を考慮することで実験の結果を定性的に再現できることを示した。また、デバイスシミュレーションで実測を再現した後、パラメータを振る感度解析を行った。その結果、ドレイン電圧とドレイン電流の積(電力)とピーク周波数に良好な相関関係があることがわかった。デバイスのパラメータによらず同じ相関関係があった。これから電力の関数でトラップのピーク周波数を考える等価回路モデルを作成することで、回路性能の予測精度が向上できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は光照射を実施した結果、トラップ信号に与える影響は信号強度の変化であることがわかった。また、デバイス構造を変えた試料を使うことで、信号強度、ピーク周波数ともに変化することがわかった。このため、ゲート電極を接地し、デバイス構造を変えた測定の方を主に実施していく。 今年度の成果として、本評価方法は実際のトランジスタ動作を行っている状態でトラップがどのような挙動を示すかを測定できることがわかった。これは他のトラップ評価法にはあまり見られない特長である。そこで、トランジスタ動作時の評価という観点で研究を進めていく。特にドレイン電圧を変えるとトラップの挙動がどう変化するかを実験、デバイスシミュレーションを利用して、デバイス内部で生じている物理現象を明らかにしていく。 これまで信号が少ないY22について研究を進めてきた。今後、信号が多いY21についても並行して研究を進める。Y21は入力に対する出力の信号に対応するものでトランジスタの重要な指標である。そこで、これまでのY22で得られた知見を活かし、Y21におけるデバイス物理を明らかにしていく。Y22ではGaN中のトラップと自己発熱効果の信号が観察できることを明らかにした。そこで、Y22のGaN中トラップと自己発熱効果のピーク周波数と同じ周波数のY21の信号は特定でき、Y22で観察されない信号の起源を明らかにしていく。 デバイスシミュレーションでは、主にこれまでYパラメータを計算してきた。今年度はYパラメータの定義に立ち返り、正弦波の小信号応答を計算できるようにする。これにより小信号の変化に応じたデバイス内部の様子がシミュレーションできると考えられる。この時間応答を体系的に算出することで、トラップのより詳細な動きを明らかにしていく。
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