研究課題/領域番号 |
21K04141
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研究機関 | 旭川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中村 基訓 旭川工業高等専門学校, システム制御情報工学科, 教授 (50435963)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / CNT-Si太陽電池 / CNT配向膜 |
研究実績の概要 |
本年度は,異なるCNT膜の積層転写条件の確立とキラリティリッチなCNTによる太陽電池の試作の2点について研究を進めた. 前者について,異なるCNTの積層転写の事前準備として,CNT膜のプラズマエッチングによる薄膜化条件を確立する必要がある.これは2種のCNT膜を積層すると,膜厚が単純に2倍になることで,CNT/Si界面に到達する光が減少してしまうことから,積層前にある程度の膜厚を減らす必要があるためである.本申請で導入したプラズマクリーナーを用いて,酸素プラズマによるエッチングをすることで,CNTの薄膜化を実現した.適切なジグを準備することでフィルタメンブレン上にCNTが形成された状態でのエッチング条件を見出し,適当な膜厚に調整することが可能となった.転写プロセス自体はこれまでと同じプロセスを繰り返すのみであるため,積層転写できる条件が確立できたと考えている. 後者については,昨年配向成膜条件を見出したCoMoCAT-CNTを用いた分散液により成膜したCNT配向膜を用いて,CNT-Si太陽電池を試作し,発電特性の評価を行った.これまではCNT配向膜の制御性が悪く,発電効率が1%未満と比較的低い効率のデバイスしか作製できていなかった.しかしながら,キラリティリッチな配向膜を用いることで,2~3%の変換効率を有するデバイスを実現することができた.また,経験上CoMoCAT-CNTでは高い配向を有するCNT膜を作製することが難しいため,フィルタメンブレン上に細かい溝(groove)を人工的に形成しし,高配向膜を実現するプロセスについても検討を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる目標は,(1)異なるCNT膜の積層転写条件の確立と(2)キラリティリッチなCNT膜によるCNT-Si太陽電池の試作であった. (1)については,成膜したCNT膜を積層前に適当な膜厚に調整する条件を押さえる必要があった.上述のように昨年度導入したプラズマエッチング装置を用い,転写前のフィルタメンブレン上に形成されたCNT膜の状態での酸素プラズマエッチング条件を見出した.このプロセスの条件検討の過程で,転写前のフィルタメンブレン上に形成されたCNT膜と,ガラス基板に転写後のCNT膜では,エッチング条件が大きく異なることがわかった.フィルタメンブレン上のCNTをエッチングする際には,適切な金属製のジグを用いることで安定したエッチングがなされ,これにより制御性の高い膜厚調整が可能となった. (2)については,昨年度確立したキラリティリッチなCNTの成膜条件を用いてCNT配向膜を作成し,CNT-Si太陽電池デバイスを約10デバイスほど試作することができた.膜厚や配向度の異なる複数のデバイスを試作し,それぞれのパラメータによる依存性について傾向をつかむことができた.含まれるCNTのキラリティが異なる2種のCNT膜での太陽電池の特性を整理することができ,今後のタンデム型太陽電池の試作に向けた基礎的なデータを得ることができた. 以上のように,本年度の目標である(1),(2)について,必要なデータや知見が得られたと判断し,上記の「おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
R4年度の結果から,積層転写に関する基礎的な作製条件を確立し,また,半導体リッチなCNTによる太陽電池試作によってベースとなるデータを収集できた.そこで,R5年度は異なるCNT種を積層したタンデム型太陽電池の試作を進める.また,主としてR3年度に評価をした偏光入射光による発電メカニズムの検証実験を再開し,新しく試作した半導体リッチなデバイスやタンデム型デバイスにおいても評価を進める.さらに太陽電池デバイスの試作数を増やすために,CNT配向膜の自動成膜システムの開発も同時並行で進める予定である.これにより,少ない人員で多くの配向膜を作製で切るようになり,研究の加速が期待できる.また,R4年度に引き続き,CNT膜単体およびCNT-金属電極間の低抵抗化に向けた,デバイス作製プロセスの見直しを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
差額は数万円以内であり大きな差異があるわけではないが,そのような差異が生じた理由としては,消耗品でフィルタメンブレンのgroove形成に必要なグレーティングが予想以上に消耗したため,追加発注をせざるを得なかった.一方で,その他経費での利用が想定より少なかったことが挙げられる.
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