研究課題/領域番号 |
21K04143
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研究機関 | 豊田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
及川 大 豊田工業高等専門学校, 電気・電子システム工学科, 准教授 (40707808)
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研究分担者 |
塚本 武彦 豊田工業高等専門学校, 電気・電子システム工学科, 教授 (10217284)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超伝導体 / テラヘルツ電磁波 / 自己発熱効果 |
研究実績の概要 |
超伝導体は次世代デバイス材料として注目されており,高いエネルギーギャップを有するため,未開拓周波数領域であるテラヘルツ電磁波(THz波)発振源への応用が期待されている。しかし,超伝導体を用いたTHz波発振デバイスは著しい不均一な自己発熱(ジュール熱)が伴うため,局所的に臨界温度を超えてしまう領域(ホットスポット)が出現し,超伝導としての動作領域が減少してしまう。よって発振電磁波の出力が低下してしまう問題がある。そこで,本研究では,デバイス内部の温度不均一性を改善することによって,THz波発振デバイスの出力向上を試みる。 令和3年度は超伝導体THz波発振デバイス内部の不均一温度分布とその改善方法について数値解析を行った。デバイス内部を等価回路化し,その回路方程式と熱伝導方程式をパラメータの温度依存性や異方性を考慮して矛盾なく解くことによって,デバイス内部の温度分布,電流分布を明らかにした。さらに,その温度分布の改善(均一化)手法を提案し数値計算した。超伝導THz波発振デバイスの端部に外部発熱体を設置して加熱することによって,超伝導体の電気抵抗率を制御し,温度分布を均一化できることを示した。その結果,臨界温度を超える領域は減少または消失し,THz波発振デバイスとしての動作領域の拡大により発振出力の向上が期待される。また,本手法により電流電圧特性の電圧値が向上した。これは超伝導THz波発振デバイスから高周波数の発振が可能なことを示している。以上の数値解析的に示した自己発熱効果の抑制方法は技術的に実現可能であることも検討してある。よって,令和3年度に得られた実績は令和4年度以降予定している実験的検証に大いに有効であったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の当初の目的は超伝導テラヘルツ電磁波発振デバイスにおける自己発熱効果の抑制手法を数値解析的に見出すことであった。超伝導体内部を等価回路化し,その回路方程式と熱伝導方程式をパラメータの温度依存性や異方性を考慮して矛盾なく解くことによって,超伝導体内部の温度分布,電流分布を明らかにした。また,発振デバイス端部に発熱体を設置し,適切に加熱することで自己発熱効果による不均一温度分布の改善だけでなく,電流電圧特性の電圧値の向上により発振周波数の向上にも有効であることがわかった。また発熱体を設置する手法は実際の素子作製技術で十分可能であり,次年度以降の実験的研究の大きな指針になった。 さらに,高出力のテラヘルツ電磁波を放射するためには超伝導体内部に内包されるジョセフソン接合の同期現象が必要である。その同期現象を接合内部に誘導される電磁波の観点から数値解析によって調べることに着手している。 以上のように令和3年度予定していた計画は順調に遂行され,本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は実験的研究を遂行する。令和3年度の数値解析の結果をもとに,まずは,超伝導テラヘルツ電磁波発振デバイスの端部に外部発熱体を設置するデバイス設計を行う。超伝導結晶のテラヘルツ電磁波発振デバイスへの微細加工はフォトリソグラフィ及びアルゴンイオンミリング(エッチング)を用いて行う予定である。そのためには,まず,アルゴンイオンミリング装置の構築を行う。現有の設備に高周波電源及び真空系を揃え,装置を構築する。そのイオンミリング装置はターゲット電極の温度が上昇することが懸念される。その結果フォトレジストが熱により硬化し,除去不能になることが予想される。そこで水冷系を有したターゲット電極の設計及び作製を行う予定である。 上記の微細加工技術により作製されたテラヘルツ電磁波発振デバイスを冷凍機内で冷却し,電流電圧特性を測定する。数値解析結果との差異を実験的に測定し,外部発熱体の発熱量と電流電圧特性の依存性を明らかにすることを計画している。さらに高出力のテラヘルツ電磁波を放射するためには超伝導体内部に内包されるジョセフソン接合の同期現象が必要である。その同期現象を接合内部に誘導される電磁波の観点から数値解析によって調べることを予定しており,既に着手している。
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次年度使用額が生じた理由 |
超伝導原材料費が想定額より安価であったため,次年度使用額とした。次年度は追加で購入する超伝導材料費の補填として使用する予定である。
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