誘電体材料の高機能化手法として、異なる分極状態を持つ材料をナノ領域で人工的に複合化 し、界面領域に分極傾斜構造を構築する方法が期待されている。本研究では、ナノ構造を含有した有機金属溶液を光照射によって結晶化し、膜中に分極傾斜構造を含有する薄膜形成プロセスを開発することを目的とする。 昨年度までに、ナノ粒子と元素ドーピングの導入により漏れ電流の影響なく薄膜の強誘電性の評価を実現した一方で、ナノ粒子がもたらす傾斜構造が膜全体の電気物性に影響を及ぼす機構については未解明であった。昨年度に引き続き、アルカリNb系ペロブスカイトを簿材料として成膜条件探索およびナノ粒子・ドーピング量の最適化を行った結果、誘電体膜の絶縁破壊強度が大きく向上することが明らかとなった。結果として、スパッタなどの設備で作製されたアルカリNb系膜と匹敵する分極反転能を示す薄膜を、大気中で湿式プロセスで作製することに成功した。 分極傾斜構造が膜の電気物性に影響を及ぼす機構を明らかにすることを目的として、電子状態計算を用いた分極傾斜構造の物性予測を行った。ペロブスカイトの相転移挙動を計算する目的で機械学習を取り入れた材料物性計算を、昨年度よりさらに改善してより効率的にポテンシャル曲面を計算する手法を開発した。異種材料間での分極-構造エネルギー相関の違いから、本研究で構築した分極傾斜構造についての考察を行い、ポテンシャル曲面を決定するエネルギー項の類似性が、分極傾斜構造を形成する上で重要であることが示唆された。今後は、網羅的な材料計算へと進展させ、有望な異種材料複合構造の予測と簡便な溶液法での膜作製とを有機的に連携する、MIプロセスへの高度化を進めていきたい。
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