研究課題/領域番号 |
21K04149
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
金 敬鎬 北見工業大学, 工学部, 教授 (70608471)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノ構造体 / 酸化物 / スーパーキャパシタ |
研究実績の概要 |
持続可能な社会を実現するためエネルギー・地球環境問題の解決策として、環境への負担が少なく、安全かつ安価な再生可能エネルギー源の開発やエネルギー貯蔵デバイスの性能向上を図る必要がある。特に、従来の貴金属ルテニウム系と比べ比較的に安価であるニッケル、コバルトなどの遷移金属系酸化物を用いたスーパーキャパシタ(エネルギー貯蔵デバイス)の場合、その製造コスト面で優れた競争力を持つことで注目されている。しかしながら、デバイスの低いエネルギー密度や出力の安定性などの電気化学的特性の改善が必要である。 令和3年度では、簡単かつ環境にもやさしい化学溶液堆積法に基づくウェットプロセスを用いて、透明電極基板上に直接成長させた酸化ニッケル薄膜ナノ構造体への異なるドーパント(コバルトと亜鉛)が及ぼす形態的特性への影響を検討した。酸化ニッケル薄膜は、数ナノメートルオーダーの幅とマイクロオーダーの膜厚をもつ基板に対して垂直に成長したナノシート構造体であった。また、酸化ニッケル薄膜の核生成と成長速度は、ドーパントより効率的に制御可能でありその電気化学的特性への影響について検討した。次に、異なるニッケルとコバルトの前駆体比により基板上に直接成長された複合酸化物のナノシート構造体は、前駆体比率によりそのナノシートの形態(幅・膜厚)制御が可能であることを明らかにした。このように、スーパーキャパシタの電極材料として酸化物ナノ構造体の形態を制御して最適化することは、そのデバイスの性能向上を図るために最も重要な要素である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、簡単かつ環境にもやさしい化学溶液堆積法に基づくウェットプロセスを用いた新規複合ナノ構造体の成膜条件をよりシンプルに最適化することで、可逆的ファラデー反応を利用したスーパーキャパシタの電極材料としての最適したナノ構造を検討し、その電気化学的反応機構を解明することを目的とする。 今までの研究成果は、(1)数ナノメートルオーダーの幅とマイクロオーダーの膜厚をもつナノシート構造体を有する酸化ニッケル薄膜への異なるドーパント(コバルト、亜鉛)が及ぼす形態的・電気化学的特性を評価し、その結果を雑誌論文(Materials Letters, 305 (2021) 130755)として報告した。透明電極基板上、不均一核生成より成長した酸化ニッケル薄膜の場合、基板に対して垂直に成長されたナノシートは相互接続し、マイクロオーダーの多孔質(ポーラス)構造体であり、その成長はコバルトドーパントにより促進される。一方、亜鉛ドーパントを添加した場合、酸化ニッケル薄膜の可視光領域における透過率を向上させることが分かった。また、コバルトと亜鉛をドープした酸化ニッケル薄膜は、アンドープサンプルと比べ、電気化学的に活性化していることが分かった。次に、(2)ニッケル-コバルト複合酸化物は、コバルト前駆体比の増加に伴いナノシートの幅は増加する一方、不均一な膜が形成された。その研究結果に関しては国内学会(電気化学会 第89回大会、R4年、3月)で発表した。 複合酸化物ナノ構造体の形態的特性制御は、スーパーキャパシタの電極材料としての性能向上のみならず、エレクトロクロミック素子やセンサー、酸素発生触媒などの応用分野にも極めて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、異なる基板上に複合ナノ構造体を作製し、基板の組成や形状が複合ナノ構造体の形態的特性への影響を明らかにする。ウェットプロセスを用いた場合、高価である真空装置を必要とするスパッタなどのドライプロセスと比べ、比較的安価な装置を使用して成膜することが可能である。 そこで、様々なウェットプロセス中、化学溶液堆積法を用いてナノ構造体を成膜し、基板との反応と溶液中の反応を制御することで多様なナノ構造を有する構造体を成膜することが可能である。ナノ構造体の表面積や配向性などの形状的特性はその応用範囲を考える上で重要な要因の一つである。そこで、直接成長により基板上に成膜させたナノ構造体の作製条件の変化にともなうその不均一核生成と成長過程を明らかにする。また、間接成膜を用いた場合、溶液中で均一核生成により成長した複合ナノ構造体の形状的特性を比較し、異なる核生成メカニズムにより成長したナノ構造体の形態的特性との相互関係を明確にする。 令和5年度は、新規複合ナノ構造体のサイズや表面積、配向性の形状的特性とその電気化学的反応特性との相互関係を解明することで、エネルギー貯蔵デバイスとして電気化学キャパシタの性能向上を目指す。そして、ナノ構造体のエネルギー反応機構について得られた結果をとりまとめ、研究成果を発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
英語論文の校正費として使用する予定だったが、今年度末までに投稿準備が完了しなかったため,次年度使用(13,776円)が生じた。研究開発に必要な試薬や基板などの消耗品費などで計画的に研究費を使用する。
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