研究課題/領域番号 |
21K04152
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
赤丸 悟士 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (10420324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素 / 磁性多層膜 |
研究実績の概要 |
電子ビーム蒸着により積層したFe/V多層膜において、Fe/V層の積層回数、V層の厚さの調節、基板の種類、の検討を行うことで、過去に報告されたものと同様なFe層間の磁気相関に由来した磁気抵抗を示す多層膜を得た。また、V層の厚さの調整により、各Fe層間の強磁性および反強磁性的な磁気相関が周期的に変化することも確認できた。そこで、V層の膜厚を変えたいくつかのFe/V多層膜に対して様々な窒素-水素濃度下での磁気抵抗を測定した結果、水素化したV層を持つ多層膜では磁気相関由来の磁気抵抗が消失した。V層から脱水素化することで磁気抵抗は元に戻ることから、磁気抵抗の変化はV層の水素化によると考えられた。この磁気抵抗の可逆的な変化は水素化によるV層の膜厚変化が影響していると考え、V単層の薄膜をMgO上に作成し水素化による膜厚変化を評価した。MgO基板上のVは立方晶となりその<100>方向が基板面に垂直に配向していた。水素化により正方晶のV水素化物(VH0.5)となると、正方晶のc軸が基板面に垂直に配向した構造をなった。この変化が多層膜でも同様であると考えると、多層膜でのFe層間距離はVの水素化により10%程度伸びると考えられるが、このV層の伸びに伴うFe層間距離の変化と各Fe層間の距離に対する磁気相関の周期性とは一致しなかった。つまり水素雰囲気下での磁気抵抗の変化は、Fe層間の距離の変化ではなく、V水素化物の形成による結晶構造や電子構造の変化が主要因であることが示唆された。 水素による磁気抵抗の可逆的な変化が確認できたので、次にFe/V層の下地として考えているNiO薄膜の作成検討を行った。スパッタリング装置を構築し、NiOターゲットを使うことで基板上にNiO薄膜が作成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予想とは異なるものの、Fe/V多層膜のFe層間の磁気相関に起因する磁気抵抗を水素により制御できることを示し、また制御の可逆性や繰り返しの再現性も検討できた。
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今後の研究の推進方策 |
Fe/Vを3回繰り返し積層した多層膜で見られる磁気抵抗の大きさは、水素吸収による抵抗変化の1%程度でしかない。Fe/V層の繰り返し回数の増加により磁気抵抗を相対的に大きくすることを狙う。 磁気抵抗は水素雰囲気下で減少することを示したが、無磁場下での抵抗値は水素吸収により上昇する。つまりFe/V多層膜において水素濃度に対する抵抗変化を大きくするには、磁場を印加する必要がある。そこで、NiO薄膜をFe層の磁化のピンニング層として導入したFe/V多層膜を作成し、無磁場下における水素吸収による抵抗変化の増幅を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
構築したスパッタリング装置の部品費を中古品の使用により抑えたため、助成金に余裕ができた。これは、装置の改良や細かい機器の追加に充てる予定であり、本年度の助成金と合わせて使用する。
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