研究課題/領域番号 |
21K04153
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊東 栄次 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50303441)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ドット / 発光ポリマー / 酸化物ナノシート / ナノ粒子 / 逆構造型有機EL |
研究実績の概要 |
2021年度は逆構造型の有機ELの発光層に半導体量子ドットと高分子半導体のブレンド膜を用いたデバイスの作製と評価を行った。また,材料供給ルートやコストの観点で微量なナノ材料を効率よく製膜する手法の検討が必要となったことから,高分子系の有機ELや有機トランジスタ構造を使って効率的かつ薄い均一膜の製膜方法や厚さ,移動度,発光スペクトルなどの評価と検討を行った。 HOMOが深い半導体量子ドットに正孔を供給するため青色発光ポリマーのポリフルオレン系材料やPVKを用いて低電圧動作を確認した。また、LUMOが深い半導体量子ドットを発光材料とすることによりAlドープZnOナノ粒子層からの電子注入が容易になり逆構造型有機ELの課題であった電子注入特性改善に有効であることを明らかとした。 ブレンド層の厚さを10-50nmおよびブレンド比率を変えたところ薄い発光層ではリーク電流の増大に加えて電子注入層界面でPLQYが著しく低下し励起子失活によるEQE低下することが判明し、一方で50nm以上では高抵抗化し動作電圧が増加した。厚さ30nm前後で効率が改善することを確認した。 酸化物ナノシートを電子中ン集草として用いた場合、ZnOナノ粒子を用いた場合にくらべて1/10程度の厚さでリーク電流を抑制できるが電子注入障壁増加に伴う直列抵抗や効率低下の影響がみられた。本年度実績では緑色発光素子において発光開始電圧は3V以下に低減するが使用した量子ドットのPLQYが低いこともありEQEは3.1%が最高であった。青色発光素子においては1%前後であった。また量子ドット表面を修飾している長鎖アルキル系分子の除去のための発光層の加熱工程はキャリアの輸送性改善に有効であるが、量子ドットの凝集に伴いポリマーと相分離していることがTEM観察から確認された。相分離の影響を考慮したブレンド比率や製膜法の改善が今後効率向上に重要となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたように電子注入改善に伴う低電圧動作を実証できたが、極薄の発光層を用いた際に励起子移動や凹凸の影響に伴う効率の低下やリーク電流の増加がみられた。また、量子ドットと半導体(発光)ポリマーが発光層面内で相分離していることでキャリアバランスの低下による効率低下の影響も見られた。ただし、ブレンド比率を変えることで改善した。 本年度のデバイスのEQEは3.1%と既報と比べると低かったが、これは用いた半導体量子ドット/ポリマーブレンド層の積分球を用いたPLスペクトル測定からPLQY値が20-30%と低かったためと考えられる。発光層の製膜・後工程の検討とPLQYがより高い値を有する半導体量子ドットによる高効率化の検討が重要となる。 使用した量子ドット材料はCd含有することや合成技術の点から購入して使用したが,情勢変化もあってかいくつか製造中止になったり,25mgで10万円するなどこれまで用いてきたスピンコート法を見直す必要が発生し,新たに材料使用料を抑えて利用率も高めた製膜法の検討を行った。まずは高分子膜や有機半導体膜を例に製膜して有機ELや有機薄膜トランジスタ構造にして発光特性や移動度、結晶性などを評価した。その中で,量子ドットを用いたデバイスの製造方法の改良や性能向上のきっかけもつかめた点でも進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗状況を踏まえて、半導体量子ドットの選別と製膜法の検討を進めていき、PLQYが70%を超える発光層の検討と発光素子の高効率化の実証を進めていく。 また、ブレンドするポリマーに黄色~オレンジ発光材料を加えることで青色発光量子ドットからのエネルギー移動に伴う高効率白色発光を検討していく。 また、量子ドットが発光ポリマーに比べて色純度や動作電圧の低減に有効である反面、材料コストが1桁近く高い点についても配慮する必要があり、これまで用いたスピンコート法は適切とは言い難い。ブレンド層の材料利用率の改善と性能向上の両立を目指した、新規製膜法について予備実験は進んでおりさらなる検討を進めていく。
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