研究課題/領域番号 |
21K04155
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
道岡 千城 京都大学, 理学研究科, 助教 (70378595)
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研究分担者 |
植田 浩明 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10373276)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強磁性材料 / ソフトフェライト / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
フェライト材料は新たな開発のためにも,それぞれの物質の組成,構造,磁性について相補的に正しく理解されているべきであるが,カチオン,酸素の欠損やカチオン間のサイト置換の為,統一的な理解をすることが困難になっている.本研究ではNMRを用いた微視的な研究から,強磁性体のNMR研究としてもっとも多くの課題を残す軟磁性体について,Mn系ソフトフェライトを中心とした化合物群を代表させて,構造,磁性の微視的解明を行っている.特に強磁性物質のNMRに関する課題を明らかにし,その解決に向けた手法開発を行い,それらの手法による他の系への応用,および正しい物質同定をベースとした材料開発への還元を試みることを目的としている. 今年度はキックオフとして,まず軟磁性体である焼結体試料のMnFe2O4の55Mn核,57Fe核におけるゼロ磁場NMR及び,57Fe核の磁場中NMRを行った.そのためのNMR信号を高速積算するための装置開発,高周波数領域においてNMR信号を観測するための装置開発,また磁壁と磁区の信号を正しく分離するための実験条件の確立にもっとも多くの時間を費やし,次年度以降の本格的な測定に対する準備を行った.またこれらのNMR測定の結果と巨視的磁化の比較研究を行い,通常正スピネルだと考えられているマンガン鉄フェライトのAサイト,Bサイトの置換状況を考察し,巨視的磁化を作り出す微視的物性の研究を行った.また巨視的な異方性について研究を行うため,化学輸送法,フラックス法,溶媒輸送型フローティングゾーン(TS-FZ)法における単結晶育成に取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までで、MnFe2O4の55Mn核,57Fe核におけるゼロ磁場NMR測定のノウハウを蓄積し、今年度は実験データの解析法の確率に取り組んだ。これらからMnFe2O4のAサイト、Bサイト占有率、またその置換系についてもサイト占有について有益な情報が得られた。 また巨視的な磁化を研究して、通常は磁気異方性が小さいと考えられているソフトフェライトにおいて、磁化の磁場依存性における線形はわずかながらの異方性に起因し、またそのことが材料の性質を大きく変えることを見出した。しかしながら、粉末焼結体における保持力から、磁気異方性の見積は直接的ではなく、組織の形成にも依存するため、単結晶において研究する必要がある。単結晶試料の育成に関して,四塩化テルルを用いた化学輸送法,およびBi2O3,炭酸ナトリウムを用いたフラックス法により微少結晶を得た.しかし得られた単結晶はどれも小さく、巨視的な磁化の測定に不向きなため、溶媒輸送型フローティングゾーンにより大型単結晶の作成を試みた。10回以上の試行錯誤によって、最大直径3mm、長さ20mmの単結晶の育成に成功した。 またこれらの軸を切り出すための単結晶X線回折装置と組み合わせたプログラムの開発を行った。
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今後の研究の推進方策 |
まず今後の目標として,FZ法により作成したMnFe2O4について<100>、<110>、<111>方向に磁場を印加した場合の磁化の磁場依存性を詳しく研究する。また巨視的な異方性の原因を探るために、それぞれの方向に磁場を印加した場合のNMR測定を行う。 また製作した単結晶はその成長条件により、Aサイト、Bサイト置換の比率が異なると考えられる。そのため、いろいろな条件、方法で単結晶を育成し、それぞれ置換量と巨視的物性、微視的物性との関係を明らかにする。具体的な計画として,化学輸送法における輸送材の種類を変える,もしくは温度条件を鑑み単結晶試料の大型化を目指す.また材料である磁性体と比較するために,それらの焼結体も作成し,組織構造が巨視的物性,微視的物性に及ぼす影響も考察する.これらすべての結果から、MnFe2O4を中心としたソフトフェライトの材料としての物性に対して、何がキーポイントになっているのか学術的な知見を与える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究においてNMRスペクトロメータの改善を行っているが,本年度の開発で見つかった問題点を改善するため、次年度にシステムの一部を更新する。そのための予算を残した。 また電気代の高騰により、寒剤の急激な値上がりが予想される。最終年度のNMR測定は、本研究を総括するためにも余裕をもって行われる必要があり、一部の予算を残した。 また本年度、まだCOVIDの影響が残り、国際学会において成果発表、情報収集を行うことが出来なかったため、次年度学会参加費に一部の予算を用いる予定である。
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