研究課題
InAsSbチャネル量子井戸構造における電子輸送特性に関する研究を、実験(結晶成長と評価)とシミュレーション(バンド構造計算、モンテカルロ計算)を併用して進めた。分子線エピタキシー装置のAsクラッキングセルの故障により、結晶成長の実験開始が1年遅れてしまい影響が生じた。昨年度(2022年度)に行ったバルクInAsSbのⅤ属元素の組成制御の結果を基に、バルクInAsSb(厚さ300~500 nm)のⅤ属元素組成、成長温度、バッファ層を変えた実験を行った。InAsSbにおいてはⅤ属元素組成や成長温度により、InAsとInSbの相分離が起こることが知られている。今回の結果によれば、特に成長温度による相分離への影響が強く見られた。バッファ層にはInSb、AlSb、AlInSbを用いた。表面形態や結晶性においてはInSbバッファが最も良く、この場合の電子移動度が最も高かった。またInSbにAsを加えていくと、電子移動度は徐々に減少し電子濃度は増大する。低As組成で高温成長させると表面形態、結晶性、電気的特性が向上する。現時点では、電子移動度の最高値として、As組成0.16で約15,000 cm2/Vsが得られた。InAsSbにおけるバンドギャップやΓバレーにおける電子の有効質量は、InAsとInSbの線形内挿値から大きく負方向に湾曲する。汎用的な擬ポテンシャル法によるバンド計算ではこの現象を再現することが出来ない。そこで第一原理バンド計算プログラムVASPにより、混成密度汎関数理論を用いてInAsSbのΓ-L及びΓ-Xバレー間のエネルギーを計算したところ、負方向への湾曲が得られた。これまでモンテカルロ計算に用いたパラメータは、Γバレーの電子の有効質量以外はInAsとInSbの線形内挿値である。今後はVASP計算によりバンドパラメータを厳密に抽出する必要がある。
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Activity Report / Supercomputer Center, Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
巻: 2023 ページ: -