オンオフ比と移動度が高いグラフェン薄膜トランジスタの作製を目指し研究期間3年間で①ニッケルの純度の影響②グラフェン合成温度、アセチレン導入条件の最適化③酸素およびキャリアガスの影響④ニッケルの膜厚の影響⑤ゲート絶縁膜の薄膜化について研究を行ってきた。
その結果、ニッケルの純度および合成温度が高くなるにつれて欠陥が少ないグラフェンが合成され900℃まではグラフェンの欠陥が低減するが、1000℃以上では炭素の析出量が多く、逆に欠陥が増大することが分かった。また最も高品質なグラフェンが合成できる炭素導入時間は、800℃の4分から900℃では1分50秒と大幅に短縮し、更にニッケルの膜厚を半分にすると50秒で合成可能となることも明らかとなった。酸素濃度、昇温時の還元時間、水素濃度によるグラフェンの膜質に変化は無く、X線回折にも酸化ニッケルのピークが見られることから、90%の酸素濃度が最適条件であることが分かった。 アルゴンに比べ窒素ガスをキャリアガスに用いることでグラフェンの結晶は5倍以上となり、欠陥は半分以下と大幅に低減したことから、キャリアガスがグラフェンの膜質に大きく影響を与えることが今回の研究で新たに分かった。今後様々な不活性ガスをキャリアガスとして用いることにより、更なる高品質なグラフェンを合成できる可能性がある。一方ゲート絶縁膜の薄膜化はゲートリーク電流の制御が難しく100nm以下の研究が思ったよりも進まなかった。 以上のことより最もオンオフ比と移動度が高い薄膜トランジスタの作製条件は、ニッケルの膜厚200nm、合成温度900℃、アセチレンの導入時間50秒、キャリアガスに窒素ガスを用いた場合であることが明らかとなった。
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