研究課題/領域番号 |
21K04169
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
辻 寧英 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (70285518)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジー最適化 / 光デバイス / 有限要素法 / 関数展開法 |
研究実績の概要 |
高性能な光デバイスの開発のため関数展開法に基づくトポロジー最適化の検討を行なった.トポロジー最適化では計算機が自由に最適化構造を自動生成できるが,性能のみを追求するとその設計の自由度の高さから作製難易度の高い複雑な構造が得られ,実際の作製において製造誤差があると極端に特性が劣化してしまう可能性がある.そのため,設計の際の目的関数に作製誤差による特性劣化が起こりづらい構造を見出すこともまた重要である.そのため,目的関数に特性意外の制約条件を課す検討をいくつか行なった.具体的には,単純な構造を得るために構造境界線の長さを短くするような条件,構造を定義する関数の高周波成分を抑圧する条件,実際の構造変化に対して特性劣化が小さくなる条件などを適用し,多目的最適設計を行うことで,どの程度の構造の複雑さを許容するとどの程度まで特性を高められるか,必要な特性をこの程度と考えるとどの程度まで構造を単純化できるかのある程度の知見が得られた. これらの検討に附随して,数値シミュレーションの効率化を行うための検討として,有限要素法による伝搬解析に必要としていた完全整合層を伝搬演算子で置き換えた新しい有限要素法を提案し,解析空間をブロックに分割して各ブロックの散乱行列演算子を導出しておくことで周期的な構造などの計算を大幅に効率化できることを示した.また,3次元光デバイスを効率的に設計するために,従来よりも精度を高めた等価屈折率法による2次元近似設計を行い,その構造を3次元解析に基づき反復改良することで,3次元設計の負荷を大幅に低減できることを示した. 最適解の探索方法として,ハーモニーサーチ,CMA-ESなどの新たな最適化手法についても検討を行い,プラズモニックデバイスやミリ波帯のNRDガイドの設計に有用であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光デバイスの多目的最適設計について,一通りの検討ができる状態にプログラムを開発し,一定の成果が得られた.最適設計の汎用性と効率性を両立するため,大域探索能力に優れた進化的手法に代表される多点探索と,随伴変数法による感度解析に基づく局所探索能力に優れた勾配法を併用することで,効率的に大域解を見出だせることを示し,実際に最適設計に応用できた.これらに加えていくつかの新しい最適化手法についても基礎的な検討が行なえ,次年度以降にそれらを活用し発展させしていく準備ができた.最適設計の効率化のための数値解析の高速化についても検討を行い,散乱演算子行列を導出できる新しい有限要素法,波動伝搬特性を利用して有限要素法の離散化を緩和できる緩慢変化包絡線有限要素法,Partition of Unity に基づく有限要素法の有用性についても検討が行えた.実際の作製を考えたときに要求される制約条件を最適化の目的関数に組み込むことで,最適化で生成されるデバイス構造をある程度制御できることも確認でき,次年度以降のより実際的なデバイスの設計検討のための基礎となる知見が得られた.また,近年ではデバイスの小型化を狙った強導波路デバイスへの期待が高く,3次元構造としての解析設計が必須でとなっているが,3次元デバイスの設計を効率的に行うための改良型等価屈折率法や,対称性やデバイスの特性を活かした厳密性を損なわない解析次元の低減などいくつかの新しい取り組みを行い,今後の検討に活用する準備ができた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに検討を行なったトポロジー最適設計法がより汎用的なものになるように検討を行う.より大域的な最適解を効率的に探索できるような解探索アルゴリズムは特に重要であり,これまでに他の研究グループから光以外の分野で報告されている解探索アルゴリズムを積極的に取り入れ解探索アルゴリズムの改良を行なっていく.また,設計領域内の構造をどのように数値表現するかは最適設計において重要な要素のひとつであり,関数展開法の基底関数に新たな関数を導入する検討も行う.現在,メタボールを利用した最適設計について検討を始めたところで,その有用性について検証するとともに,さらに優れた数値表現法はどのようなものかについて検討を行う.また,設計領域内の数値表現に最も適合した解探索アルゴリズムは何かについても検討を行う. これらに加え,特に3次元光デバイスの設計は重要であるため,今年度までに得られた知見を基に将来的に実用的な時間内でトポロジー最適化を行えるような検討を行う.特に,数値解析法の改良は重要であり,1次元,2次元問題で有効性を確認している波動伝搬の性質を利用した新しい数値解析法を2次元,3次元デバイスの最適設計に活用していけるように検討を進める. 本設計手法は光に限らずより低周波の電磁波デバイスへも適用可能であり,ミリ波帯,THz帯のデバイスの最適設計にも応用していくための検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度出張が制限され,国際会議がオンラインになったり延期になった.次年度はできなかった成果報告を積極的に行なっていく予定である.
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