半導体デバイス分野では高機能化・高集積化のため、縦型ゲートオールアラウンドFET(GAA-FET)が近年検討されている。スピンデバイスについても縦型GAAの検討は重要と考えられる。そこで本研究では、表面・基板側ともに強磁性体MnAsを有し、その間にIII-V半導体が挿入されたMnAs/III-V/MnAsヘテロ構造の結晶成長を行い、成長条件や膜厚・層構造に対する構造評価や電気・磁気特性評価を系統的に行う。さらに、それらヘテロ構造を利用して、縦型スピンデバイス作製技術の確立とデバイス特性評価を行い、特に縦型・短チャネル化によるスピン緩和抑制について検証する。以上を本研究の目的としている。 今年度は、MnAs/InAs/MnAsヘテロ構造の分子線エピタキシー(MBE)成長およびマイグレーション促進成長(MEE)の併用と、縦型スピンデバイスプロセス条件の確立およびGAAのない2端子の縦型スピンバルブ素子の作製をまずは目指した。 InAsのマイグレーション促進成長については、担当した大学院生の実力不足やMBE装置の不具合により、本年度も実施に至らなかった。しかしながら、2端子の縦型スピンバルブ素子の作製については、昨年度にようやく可能となった250℃の低温成長によるMnAs/InAs/MnAsヘテロ構造を用いて、最小200 nm幅のポスト構造作製、スピンオングラス(SOG)材料を用いた埋め込みの検討を行うことができた。その結果、設計幅200nmから500nmのポスト構造を有する縦型スピンバルブ素子の作製に成功し、2Kから160Kでのスピンバルブ動作の確認や、スピン注入効率の評価をすることができた。残念ながらGAAの検討には至らなかったが、この他、新たな試みとして、磁性体からの漏れ磁場とゲートからの電場によりスピン偏極する素子についても理論計算と試作を行い、またMnSb/InSb系成長の試行も行った。
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