本研究の目的は、無線電力伝送分野での研究が進展している電磁界結合をマイクロ波加熱に応用し、金属筐体で囲わない開放系でも電磁波漏洩がほとんどないマイクロ波加熱を実現することである。本研究では、均一に加熱する開放系マイクロ波加熱の多次元拡張の実現を目指す。 今年度は昨年度に引き続き、0次モード共振器を利用した電磁界結合型マイクロ波加熱の基礎研究を実施した。0 次モード共振は共振時の理論上の波長が無限大となるため、発生する定在波に節や腹がなく均一加熱領域の伸張が期待される。誘電体基板上に作製した2つの0次モード共振器を対向させて電磁界結合させることにより、共振器間に一様な電界強度が得られることを電磁界シミュレーションおよび実測により確認した。また、被加熱試料としてSiC板を共振器間に挿入し、均一にマイクロ波加熱されることをサーモグラフィ画像で確認した。 加えて、昨年度に引き続き2次元展開を目指した軌道角運動量(OAM: Orbital Angular Momentum )モードを利用した照射型マイクロ波加熱の基礎研究を行った。OAMモードは無線通信用途での研究が検討されている電波放射方式の一つであり、モード間の振幅・位相情報には直交性を有する。本研究では、OAMモード生成アンテナから異なるOAMモードをもつマイクロ波を放射し、アンテナから距離500mm離れた位置にある平面上に形成される電力密度分布を時空間合成することによって時間平均で均一な電力密度分布が得られることを電磁界シミュレーションおよび実測により確認した。また、被加熱試料として電波吸収体を用い、広範囲にわたって均一にマイクロ波加熱できることを実証した。 以上の研究成果より、開放系マイクロ波加熱の拡張に成功した。ただし、いずれの加熱手法も現時点での加熱効率が低く、加熱効率を向上させることが今後の課題である。
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