研究課題/領域番号 |
21K04183
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
高野 恭弥 東京理科大学, 理工学部電気電子情報工学科, 講師 (10822801)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | SiGe BiCMOS / 位相雑音除去 / 共振器 / 集積回路 / センサ / テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
本研究では、テラヘルツエバネッセント波を発生し、その電力強度と位相の両方を検出可能とした集積回路を実現し、生体関連物質のリアルタイム計測の可能性を示すことを目的とする。原理検証のために、生体関連物質であるシスチンの吸収スペクトルのピークが存在する712.2 GHzをターゲット周波数とする。 テラヘルツ波を用いて物質の特性を測定するためには、通常テラヘルツ波を物質に照射し、反射波や透過波の特性変化を測定する。そのためには、出力電力の大きな送信機と受信感度の高い受信機が必要である。しかし、テラヘルツ帯の周波数はトランジスタの最大発振周波数を超えているため、十分な性能を有する送受信機を実現することができない。そこで、本研究では測定試料に接した共振器にテラヘルツ波を入力し、その透過波の変化を測定することによって物質の特性を測定する手法を提案した。共振器として、グラウンデッドコプレーナ(GCPW)線路を用いたものと、3次バターワース折り返し結合線路フィルタ(BPF)の2種類を、0.13 μm SiGe BiCMOSプロセスを用いて設計し、集積回路上部の誘電率を変化させたときの信号透過特性の変化を電磁界シミュレーションによって調べた。電磁界シミュレータにはKeysight EMProを用いた。 また、物質の特性を測定するためには、テラヘルツ波の振幅強度だけでなく、位相変化量も測定する必要がある。しかし、集積回路を用いて生成したテラヘルツ波は位相雑音が大きいため、直接位相変化量を測定することができない。そこで、本研究では位相雑音の大きな信号を用いても、位相雑音の影響を受けることなく位相変化量を測定する手法を提案した。0.13 μm SiGe BiCMOSプロセスのバイポーラトランジスタを用いて位相比較器を設計し、回路シミュレーションを用いて提案手法の有効性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はテラヘルツセンサ回路について、位相雑音除去機構の検討、ミキサの高感度化の検討、信号源の高出力化の検討を行う計画であった。また、共振器の構造検討を電磁界解析を用いて行う計画であった。 位相雑音除去機構として、次のような仕組みを提案した。大きな位相雑音を持つ信号源からの信号を2つに分け、一方の信号を測定試料に接した共振器に入力する。信号の振幅と位相が測定試料によって変化し、位相比較器であるダウンコンバージョンミキサ(DMIX)に入力される。振幅変化は電力検出器により測定する。もう片方の信号は移相器を通過し、DMIXに入力され、共振器を通った信号と掛け算される。DMIXの出力に2つの信号の位相差情報が直流電圧として出力される。この位相差情報には位相雑音が含まれているため、このままでは測定試料による位相変化量θを得ることはできない。ここで、移相器による位相変化量Φを0 - 360°で掃引すると、共振器を通った信号と移相器を通った信号の位相変化量が等しい時に極小値が得られる。この時、位相雑音も等しいため、位相雑音は除去される。この手法は、ミキサの出力電圧の絶対値からθを求めるのではなく、出力電圧が極小となるΦからθを求めるため、ミキサの高感度化も実現する手法である。 共振器の構造検討では、共振器上部で接する測定試料の比誘電率を変化させて電磁界シミュレーションを行った結果、比誘電率を1から10に変化させることにより、600 GHzでの透過利得がおよそ8 dB、位相がおよそ170°変化した。 今年度の成果は国内学会2件、国際学会1件であり、研究の進捗状況はおおむね順調であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は当初の計画通り、0.13 μm SiGe BiCMOSプロセスを用いてテラヘルツセンサ回路と共振器の設計と試作を行い、回路特性を評価する予定である。 テラヘルツではデバイスの損失が大きく、グラウンデッドコプレーナ線路の700 GHzでの減衰定数はおよそ5 dB/mmになるものと予想される。これにより、ダウンコンバージョンミキサの入力電力が小さくなる。そのため、トランジスタの寄生抵抗や寄生容量を減らしたレイアウトの検討を行う予定である。 共振器の構造検討は引き続き行う予定であり、テラヘルツエバネッセント波を低損失で生成可能な構造を明らかにする。 試作した回路の評価はベアチップにプロービングすることにより行う。実験は国立研究開発法人情報通信研究機構の設備を利用することにより実施する。得られた成果は国内学会と国際学会で発表する。
|