研究課題/領域番号 |
21K04192
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
玉山 泰宏 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50707312)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | メタマテリアル / 電磁波 / ブリュースター現象 / 広帯域制御 / 群遅延 / 異方性 / 旋光性 |
研究実績の概要 |
本研究では、厚さが1メタ原子層のメタマテリアルであるメタ薄膜におけるブリュースター現象を利用することで、電磁波の異方性も含めた広帯域複素透過率制御が実現できることを示す。今年度は、直線偏光基底での異方性も含めた広帯域複素透過率制御の実証として、広帯域波長板の実現に取り組んだ。電気双極子のみが誘起されるメタ原子を用いて、ブリュースター現象が生じるようにメタ薄膜を形成すると、メタ薄膜はp偏光に対してはオールパスフィルター、s偏光に対しては透明な媒質として振舞う。そのため、直交する直線偏光成分がそれぞれp偏光となるように、入射面の向きが90度異なる2種のメタ薄膜を積層させることにより、直交する直線偏光成分の複素透過率を独立に制御できる。この電磁波制御手法の実証として、2つの異なる周波数依存性をもつ広帯域波長板を設計した。1つ目の波長板はメタ薄膜の共振周波数から離れた周波数領域を利用することにより、透過位相の周波数に対する変化が小さくなるようにした広帯域波長板である。2つ目の波長板はメタ薄膜の共振周波数付近を利用することにより、透過位相の周波数に対する変化が大きくなるようにした広帯域波長板である。これら2つの波長板は、広帯域で直交する直線偏光成分に対する透過位相差が一定であるという点では同じであるが、透過位相の周波数に対する変化が異なるので群遅延は異なる。このことはメタ薄膜におけるブリュースター現象を利用することにより、直線偏光基底において、透過率、透過位相、群遅延、さらには、群遅延分散の周波数依存性まで同時に考慮した形で電磁波制御が行える可能性があることを示唆している。この技術は、情報処理をはじめとした広帯域電磁波を扱う応用の発展につながるものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、直線偏光基底における異方性も含めた広帯域複素透過率制御の実証として、メタ薄膜におけるブリュースター現象を用いることで透過型の広帯域波長板が容易に設計できることを示すという計画であった。当初は電気双極子と磁気双極子がそれぞれ誘起される2種のメタ薄膜を組み合わせて広帯域波長板を実現する予定であったが、入射面の向きが90度異なるように2種のメタ薄膜を配置すれば電子双極子のみでより簡単かつ高効率の波長板を設計できることを昨年度末に考えついたため、その方法による広帯域波長板の設計を通した複素透過率制御の実証を行うことにした。さらに、広帯域波長板の設計においても、当初はメタ薄膜の共振周波数から離れた周波数領域において透過位相の周波数依存性が小さいことを利用する手法のみを考えていたが、研究に取り組む中で、昨年度の研究内容に基づいた、共振周波数付近における透過位相の周波数依存性の線形性を利用する手法についてもアイデアを得て、2種の異なる広帯域波長板が実現できることを示した。これら2種の波長板は、透過位相差の大きさは同じであるが、透過位相の周波数微分、すなわち、群遅延は異なるものとなっている。この結果は、メタ薄膜におけるブリュースター現象を用いることにより、異方性も含めた複素透過率の周波数依存性を容易に様々な形で制御できることをわかりやすく示すものとなっている。このことから、研究は予定通り進捗していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、計画通り、円偏光基底での異方性も含めた広帯域複素透過率制御の実証への取り組みを開始する。円偏光基底での電磁波制御のためには、一方の円偏光のみに対して応答するらせん構造(最大旋光性をもつ構造)をメタ原子としてもつようなメタ薄膜を用いる。まずは、共振周波数の異なる旋光性メタ薄膜を積層させることで、広帯域で機能する吸収型の円偏光子を実現する。ここで、メタ薄膜の配置を変更するだけで、広帯域円偏光子のみならず、円偏光に対する広帯域群遅延制御素子も実現できるので、こちらも併せて実証する。これらの研究を通して、メタ薄膜におけるブリュースター現象を用いることにより、円偏光基底での電磁波制御も容易に行えるようになることを示す。 以上に加えて、当初の計画には無かったが、狭帯域電磁波吸収素子の実現にも取り組む。メタ薄膜の放射損失と非放射損失が一致する場合に完全吸収が実現されるが、マイクロ波領域においては金属は高い導電率を示すため、金属だけでメタ原子を形成して非放射損失を小さくした上で、さらに放射損失が小さくなるような配置にすることで、非常に狭帯域な完全吸収体が実現できると考えている。実際の金属においてどこまで狭帯域な完全吸収素子が実現できるのかを実験的に調べるとともに、低損失誘電基板上に金属構造を形成したメタ薄膜を用いた場合の特性と比較することにより、金属のみで構成されるメタ薄膜の優位性について検討する。
|