研究課題/領域番号 |
21K04193
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
桑村 有司 金沢大学, 電子情報通信学系, 准教授 (10195612)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光フェーズドアレー / 光ビーム走査素子 / プラズモニクス / プラズモニック光位相変調器 / 電気光学ポリマー |
研究実績の概要 |
電気光学ポリマーと銀を用いたプラズモニック光位相変調器(PPM)をアレー状に32個並列に並べた新型プラズモニック光フェーズドアレー(POPA)の素子設計を行い,かつその素子特性を2次元FDTD法により数値解析した.波長1.55μmにおいて,POPA素子からの出力光ピーク数が1本のみの単峰性形状で,電圧制御による出力光が100度以上の広範囲で偏向走査でき,高速,小型のPOPAが設計できた.ポッケルス係数r33=200pm/Vの電気光学ポリマーを利用すれば,各PPM素子へ印加する電圧は|9.5|V以下で,長さL=20μm程度のPPMアレー列を用いて,縦70μm・横26μmの小型サイズで,高速かつ低消費電力のプラズモニック光フェーズドアレーが構成できることを数値解析を用いて実証した.Agを利用したPPMが望ましいが硫化物形成反応が起きやすいと言われており,寿命や信頼性に問題が残る.より安定なAuやCuを用いたPPMについても評価し,位相変化量と印加電圧の関係は3つの金属でで大差なく,吸収損についてはAg,Cu,Auの順に小さい.その他,素子速度(数THz)や消費電力などの素子特性,性能指数や,各PPM間隔と光クロストークの関係なども詳細に検討した.さらに現在,開発・研究が進められているSi細線や有機材料を利用した光フェーズドアレー等と比較して,本研究で提案しているPOPAは偏向角範囲が広く100度以上,出力光ピーク数が1本,低消費電力,高速動作などの点で優れていることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
POPA設計では,銀/EOP/銀構造のスロット型プラズモニック位相変調器(PPM)を32本並列に並べて構成した.光の回折限界の制約を超えて狭い領域に光を閉じ込めることができるプラズモニック光導波路の特性を利用すると波長λ=1.55μmの光がEOP幅0.1μm以下の狭い領域を通じて伝搬でき,かつ電圧印加でEOPの屈折率を変えることができる.32本のPOPA出力端近傍の光の等位相面を水平方向から直線形状にδrad/μmに傾けると,光は空気側へθ=Arcsin(δλ/2π)だけ曲がった角度で出射する.提案しているPOPAでは隣接するPPM間隔を狭く設計できδ値を大きくできるため,100度以上の広範囲で光ビーム偏向走査が可能であることが確認できた.また,λ/2間隔以下でPPMを配列できるため出力光を1本に限定できる.現在,研究・開発されつつあるSi細線や有機材料を利用した光フェーズドアレーに比べ,広い偏向角範囲,1本の光出力ピーク,高速動作速度,低消費電力などの性能が優れた超小型サイズの素子が設計できることを数値計算で確かめた.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は提案しているPOPAの動的光波面制御機能の実証を数値計算で行っていく.POPAは集光レンズ機能を有するため,その焦点位置を自由自在に電圧で可変できる光学レンズ機能素子を設計することを2年目の目的にする.各PPMの出力端での光位相を-π~+π [rad]の範囲で電圧可変できるため,POPA出力端での光等位相面の形状を自由自在に操ることができる.出力光の波面を円弧形状に調整すれば,出射端中央からの距離fに光を集光するレンズ効果を実現でき,その焦点距離fも可変できる.また,その焦点位置の座標も自由自在に電圧可変できる.提案しているPOPAでは,このような機能を有することをシュミレーションにより実証していく.応用例として,水の中に浮遊している微粒子,分子や細胞等を光圧で光焦点位置に集めて,希望する位置に自由自在に移動可能な光ピンセット機能を有するPOPAを設計する計画である.上記の光ピンセット機能を有するPOPA素子を2台以上利用すれば,分子Aと分子Bを同一光焦点位置に接近させ,その後に異なる波長の光を照射して光化学反応させれば,新たな分子ABの合成が可能と予測される.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表がすべてオンライン発表となったため,使用計画していた旅費が不要となった.また,その他の論文掲載費は校費でまかなった.2022年度は,これらの費用は計画どおりに使用する予定である.
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