研究課題/領域番号 |
21K04196
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
有吉 哲也 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (60432738)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線 / シリコン / センサー / 光子 / フォトダイオード / 半導体 |
研究実績の概要 |
X線イメージングは人体や物体の内部構造を得る手段で幅広く利用されている。従来のエネルギー積分方式では透過X線のエネルギー情報はX線検出器にて積算されて失う。また、暗電流も積算されるので、この暗電流を凌駕するために過剰なX線照射量を必要とし、被験者の被曝線量が増加する。新たなX線イメージング法としてフォトンカウント方式が提案されている。この方式では透過X線光子を一つ一つ計測し、エネルギー情報も取得する。従って、X線イメージング像はそのエネルギー情報から元素マッピングが可能となる。また、波高値の閾値を超えたX線パルス信号のみを計測するので暗電流などの雑音を除去でき、高SN比でのX線イメージングが可能となる。また、照射X線量を抑えることができ、人体への被曝線量を少なくできる。 本研究では安価で良加工性で信号キャリアの輸送特性に優れたシリコンをフォトンカウント方式でのX線検出器材料として利用する。P型シリコン基板中にPN接合型フォトダイオードをトレンチ状に形成する。このような素子構造を採ることで数十ボルト程度の低バイアス電圧にて検出器を完全空乏化できる。また、センサー基板の側面方向からX線を照射することでX線を効率よく検出することができる。加えて、検出器全体が空乏化しているので、光電生成した信号キャリアを高速収集することができる。 提案シリコンX線センサーを評価基板とともに試作し、アメリシウム241から放出される60keVの単色γ線を照射し、検出パルス信号波形を得た。そのパルスの立ち上がり時間は12ns程度であった。生成電荷キャリアの輸送の方程式および回路シミュレーションによって、パルスの立ち上がり時間が12ns程度であることを理論的にも実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深さ300μm、幅15μm、長さ20cm、ピッチ幅166.6μmのトレンチ状フォトダイオードを厚さ550μm、比抵抗1500±500Ωcmのシリコン基板中に形成し、X線センサーとして動作させている。照射X線はフォトンカウント型X線CTで用いられるX線エネルギー帯を含む60keVの単色γ線を用いてセンサーとしての動作実験を行った。この60keVのγ線はアメリシウム241線源から放たれるものである。加えて、信号処理回路として+1500、-1000V/μsのスルーレート、ゲインバンド幅積4GHzの低雑音高速オペアンプを用い、帰還容量25fF、帰還抵抗1MΩを有する光子計数用電荷有感型前置増幅器を設計・作製し、提案X線センサーに接続した。その結果、60keVのγ線検出信号パルス波形を観測に成功した。波高値が約100mVとなり、理論予測とほぼ一致した。また、その検出パルスの立ち上がり時間は12ns程度であり、フォトンカウント型X線CTで求められる光子計数率1000万カウント/sを達成できる見込みである。この信号立ち上がり時間は信号電荷のドリフト時間に比例する重要な評価要素の一つである。 また、逆バイアス電圧-20V、シリコン基板比抵抗1500±500Ωcm、入射γ線光子エネルギー60keVの下、提案センサー内での生成電荷の輸送の方程式など(ポアソン方程式、Shockley-Ramo方程式)からデバイスシミュレーションおよびγ線吸収に伴う発生電流を計算し、更に回路シミュレータにかけて電荷増幅器からの信号波形を計算した。その結果、信号立ち上がり時間は実験値とほぼ一致した。このように、信号電荷のドリフト時間に直結するγ(X)線光子信号の検出パルスの立ち上がり時間を理論的に説明することができたので、進捗状況としておおむね順調に研究は進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
60keVのγ(X)線単一光子に対する検出効率97.5%および検出信号パルスの立ち上がり時間12nsを実験的・理論的に実証した。提案のシリコントレンチフォトダイオードはシリコン基板に溝を掘り、PSG拡散剤を塗布し、高温での熱拡散処理を施すことでトレンチ状PN接合を形成している。立ち上がり時間を理論的に説明できたと述べたが、PN接合が単純な階段接合であることを仮定した話であり、厳密にはこのようなPSG塗布、熱拡散処理、バイアスコンタクト生成用イオン注入処理、生成電荷の空間的な広がりや二次効果などを考慮したプロセス・デバイスシミュレーションを実行する必要がある。そこで本研究では上記の条件を再現できるプロセス・デバイスシミュレータを新たに整備し、現状の試作X線センサーにより近い製造・動作条件の下、X線検出信号の特性をより詳細に解明している。 また、現状ではトレンチダイオードのピッチ幅は166μmであり、プロセス改善によってピッチ幅をより狭くした場合をプロセス・デバイスシミュレーションで新たに実行する必要がある。ピッチ幅を狭くすることでX線の吸収による光電生成電荷の輸送距離の短縮化や空乏層内の強電界化によってドリフト時間が早くなり、より高速な信号処理が実現できる期待がある。フォトンカウント型X線CTは多数のX線光子の検出信号の処理を必要としているので、更なる信号の高速化は求められている。 この他、トレンチダイオード間に溝を掘って、X線吸収による光電変換電荷の隣接画素への漏れを防ぐ新構造も検討する。60keVのγ(X)線吸収による生成電荷雲は理論上、半径10μmにも及ぶので、特に画素境界付近で光電変換した場合に隣接画素への信号電荷の漏れが画像にじみに要因となるので、このような画素間の溝の掘削は対策となる一つの手段である。これに関してもプロセス・デバイスシミュレーションで検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に本科研費事業以外に民間財団助成金にも採択され、研究助成金を受領した。その結果として、この民間財団助成金で研究機器類購入や論文の英文校正などに充てた。加えて当方は2021年度に現大学へ異動し、それに伴って本科研費事業の独立基盤形成支援を受け、別途研究基盤整備経費Ⅰ・Ⅱを受領し、関数発生器やワークステーションなどの研究遂行および新研究室立ち上げに必要な機器類の整備に充てた。また、参加の計画をしていた学会が担当授業日と被るケースが多かったことや、新型コロナウィルス対策で参加を自粛したことなどで、学会渡航費の支出が少なかったことがあった。以上のような様々な要因や他方からの支援などにより研究環境の整備が早く完成するなどして、本事業での支出が抑えられ、次年度繰越金が生じた。 使用計画として、SSDM2023(International Conference on Solid. State Devices and Materials:国際固体素子・材料コンファレンス)へ出席、第三次提案X線センサーの試作費用、信号処理回路搭載のプリント基板試作費用、海外学術論文の投稿費(英文校正費を含む)、微小信号電流検出素子、上記で述べたプロセス・デバイスシミュレータの年次更新料などを見込む。
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