酸化ガリウム(Ga2O3)は、ダイヤモンドなどと並ぶ超ワイドバンドギャップ材料として、そのバンドギャップを活かした高耐圧パワーデバイスや深紫外線検出デバイスへの応用が期待されている。本研究では、Ga2O3の5つの結晶多形の中で、κ-Ga2O3 は反転対称な構造をもたず、自発分極を有することから、自発分極を利用した分極電荷によって2次元電子ガスを発生させ、チャネルとして利用する κ-Ga2O3 高電子移動度トランジスタ(HEMT)の開発を目指している。これまで、有機金属気相堆積法で Si (111) 基板上に成膜した 3C-SiC (111) テンプレート基板を用いて、この上にファインチャネル型ミスト化学気相堆積(Mist-CVD)法によって κ-Ga2O3 を成膜し、その薄膜評価を行なってきた。 昨年度までの研究において、HEMTを形成するために必要な平坦なκ-Ga2O3 薄膜の成膜条件について調査を行ってきた結果、表面平坦性に依然改善の必要があったため、今年度もその改善と、さらに、成膜中に発生するパーティクル抑制のための成膜装置の改造を行い、その効果の検証を行った。平坦性については、原料となるGaアセチルアセトナートを溶解した溶液の濃度の低濃度化と、ミストの供給量を最適化することによって、平坦性がより改善することがわかった。この薄膜は、X線回折測定およびそのφスキャン測定の結果より、面内で3回の回転ドメインをもつ orthorhombic 構造のGa2O3 であることがわかった。研究期間全体を通して、最終目標であるGa2O3 HEMT の試作までは至らなかったが、Si基板上にorthorhombic 構造のGa2O3 薄膜を成長する条件について有用な成果が得られた。
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