研究課題/領域番号 |
21K04208
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
井上 真澄 北見工業大学, 工学部, 教授 (00388141)
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研究分担者 |
崔 希燮 北見工業大学, 工学部, 准教授 (70710028)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 亜硝酸リチウム / グラウト / 寒中施工 / 強度発現 / 凍結点降下作用 / 鋼材腐食抑制 |
研究実績の概要 |
2022年度は、前年度の結果を踏まえて市販のPCグラウトをベース材として亜硝酸リチウム(LN)を添加した場合の検討を行った。具体的には、練上がり直後から前養生を経ずに氷点下履歴を受けた場合における凍結点降下作用と強度発現性に加えて、氷点下養生後に20℃の常温下において長期間追加養生した場合の強度回復や初期凍害の有無について検討を行った。その結果、温度条件毎にLNの添加率を適正に設定することにより、PCグラウトの初期凍害を防止できるとともに、氷点下環境においても良好な強度発現が得られることを確認した。 上記知見に基づき、本年度はさらに一部計画を前倒し、厳冬期の現場施工試験として透明シース管と実大コンクリート試験体を対象としたPCグラウトの注入実験を実施した。グラウト注入前後に採取したサンプルの圧縮強度を比較した結果、LNを添加した耐寒PCグラウトは注入前後で圧縮強度の差異は小さく、材齢28日にはPCグラウトの規定値(30MPa以上)を満足することを確認した。また、試験体を切断してシース管内への充填状況を確認した結果、耐寒PCグラウトの充填不良や空隙は確認にされなかった。 一方、飛来塩分や凍結防止剤の作用に曝されるポストテンション方式のプレストレストコンクリート構造物では、シース内のPC鋼材を保護するPCグラウトが確実に充填されていても外部から躯体内に侵入した塩化物イオンの作用によりシースが腐食・消失し、PC鋼材の腐食に繋がる場合がある。本研究で用いるLNは耐寒性の付与だけでなく、鋼材の腐食抑制効果も期待できることから、PC鋼材をLN添加PCグラウトで被覆した供試体を作製し、促進腐食試験を行った。その結果、PCグラウトに高濃度の塩化物イオン(12kg/m3)が含有した環境にあっても、LNをセメント結合材に対して3%以上添加することで、PC鋼材の腐食抑制効果が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は当初計画していたPCグラウトをベースとした室内実験による検討がおおむね順調に進み、現在市販されているPCグラウトに対して、温度条件毎に最適な亜硝酸リチウム(LN)の添加率を提案するに至った。その結果を踏まえて現場施工試験の一部の計画を前倒し、実環境下におけるLNを添加したPCグラウトの充填性や注入前後の品質評価試験を実施し、実施工に向けて有用な結果が得られた。一方、沓座グラウトなどへの適用を想定したセメントモルタルをベースとした検討については予備試験を開始したところであり、引き続き検討を要する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から亜硝酸リチウムをセメント系グラウトに添加することにより、練上がり直後から前養生を経ずとも氷点下環境において良好な強度発現性が得られることを明らかにするとともに、PCグラウトとしての現場適用性に関して有用な知見を得た。最終年度は、沓座グラウトなどへの適用を想定したセメントモルタルをベースとした検討に注力する。 一方で、最近の世界的な需給バランスの悪化を背景に、亜硝酸リチウムの主原料であるリチウムの価格高騰が起こっており、その影響からコスト面での課題解決が必要となっている。亜硝酸塩のうち亜硝酸カルシウムは、一般的な寒中コンクリート施工において使用される耐寒剤の主成分として汎用されており、亜硝酸リチウムより原料コストが安価である。また、亜硝酸カルシウムはセメントの水和反応を促進させ、初期強度の増進効果に優れる。しかし、添加量を増やすと流動性の低下を引き起こすことから凍結点降下作用は限定的であり、氷点下での強度発現には課題がある。そのため、亜硝酸リチウムと亜硝酸カルシウムを併用して所要の流動性と氷点下における強度発現性が得られれば、原料コストの低減につながると考える。最終年度は追加検討項目として、亜硝酸リチウムと亜硝酸カルシウムを併用したセメントペーストのフレッシュ性状および練上がり直後から氷点下で養生した場合の強度発現性と水和生成物との相関関係を明らかにすることを目的として各種の物理化学的検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた分析機器(レンタル品)の納入が遅れたため、翌年度の使用期間における負担額を計上する必要が生じたため。
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