本研究は、氷点環境下においても特別な養生を必要としない耐寒PCグラウトの開発を目的として、亜硝酸リチウムを主成分とした硬化促進剤の添加がPCグラウトの流動性や氷点環境下における強度発現性に及ぼす影響を確認するとともに、厳冬期の屋外環境下において実物大試験体を用いたグラウト注入試験を行い、その充填状況や強度発現性などの基礎性状を検討した。現行のPCグラウトの設計施工指針では、寒中でのグラウト注入作業を行わないことを標準としている.やむを得ず注入作業を行う場合には、グラウトの凍結を防ぐため構造物全体や大部分を覆う大がかりな養生囲いを設けて給熱養生する必要があるが、グラウトの使用量(材料費)に対して給熱機の燃料消費量が膨大となり養生費が過大となるため、積雪寒冷地では寒中のグラウト施工を避けざるを得ないケースが多い。 この課題に対して本研究では、亜硝酸リチウムによる凍結点降下作用に着目し、亜硝酸リチウムを添加したPCグラウトを練混ぜ直後から氷点環境下(-15~-5℃)において養生した場合の強度発現性について実験的に検討した。その結果、温度条件毎に亜硝酸リチウムの添加率を適正に設定することでPCグラウトの凍結を防止できるとともに、氷点環境下においても良好な強度発現が得られることを確認した。また、PCグラウトに高濃度の塩化物イオン(12kg/m3)が含有した環境にあっても、LNをセメント結合材に対して3%以上添加することで、PC鋼材の腐食抑制効果が得られることを確認した。 一方、実部材への適用性を把握するため、厳冬期の屋外環境下において透明シース管およびコンクリート試験体を用いた実物大PCグラウト注入試験を行った結果、亜硝酸リチウムを添加した耐寒PCグラウトはシース管への確実な充填が可能であり、流動性や圧縮強度などのPCグラウトの品質基準を満足することを確認した。
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