研究課題/領域番号 |
21K04211
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
五十嵐 心一 金沢大学, 地球社会基盤学系, 教授 (50168100)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 気泡 / 点過程 / ディリクレ分割 / 気泡間隔係数 / 保護領域 / 高吸水性ポリマー / 共変量 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
初年度研究計画に従って,メゾレベルの空間構造として気泡の空間分布を,ミクロレベルとしてセメント粒子-毛細管空隙の位置関係の評価を行った.気泡評価では,気泡を点過程とみなして提案してきた気泡間隔特性値と,従来の保護領域概念との整合性を調べた.気泡の保護領域は,気泡を母点するディリクレ分割タイル面積で評価することを提案した.そして,保護領域の累積によるペースト領域の被覆率と気泡間隔係数の対応,および気泡表面密度と一定厚さの保護範囲を考えたときの被覆率との対応を明らかにした. ミクロレベルでは,毛細管空隙分布をセメント粒子からの距離を共変量としてクロス相関関数により評価し,セメント粒子近傍の組織の不均質性を定量評価することを試みた.これらの研究により得られた主な成果は以下のとおりである. (1)セメントペーストは最寄りの気泡により評価されることを表現したディリクレタイル面積分布は,Γ分布で近似できるような分布を示し,一般的には十分な空気量を連行したたとしても,ペースト内部には気泡数が極めて疎な領域が存在することを示唆する. (2)一般的な暴露条件に対する気泡間隔係数としての推奨値200ミクロンmという保護距離を与えると,タイル面積による被覆率も著しく増大する.よって,気泡間隔係数の距離はかなりの広範囲を包含するという従来の知見とタイル面積寸法分布は整合し,気泡間隔係数はランダム分布の距離特性としても有意な指標であることが示された. (3)タイル面積を用いた評価は最小の保護能を,表面密度を用いた評価は最大の保護体積率を与えるという点で,両者の大小関係は矛盾はなく,実際の保護能はその範囲内にあると予想される. (4)未水和セメント粒子近傍には,毛細管空隙としての点過程が存在しないことが両者のクロス相関により示され,いわゆる内側生成物の領域の存在の確認と緻密性の評価が可能であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気泡分布の解析により,ディリクレ分割タイルを個々の保護領域とした保護体積率と表面密度から求めた保護体積率をそれぞれ保護範囲の下限,上限とみなしてよいことが示唆され,これをさらに発展させて気泡分布のシミュレーションによる生成,およびタイル面積の累積被覆率95%分位点値のシミュレーションへと進めることができた.また,タイル面積による保護領域評価を,既往の保護領域評価法(ペースト-気泡近接性評価法)と比較しても矛盾のないことが示され,次年度トピックであるモデル化への確実な手がかりを得ることができた.従来のペースト-気泡近接性解析では,3次元気泡粒度分布の推定を含んでいて,評価式の導出が複雑で実務には適さない.これに対して,タイル面積の平均値が,研究代表者が提案してきた距離特性値と対応することが明らかになり,簡便な気泡評価法の提案において,その特性値の有意性を与える重要な知見を得ることができた. 一方,高吸水性ポリマー粒子分布評価に関しては,初めに断面観察にてポリマー粒子を同定することから始める予定であったが,これまで使用してきた染色剤入り包埋樹脂が製造中止となり,入手不可となった.代替品の樹脂を試したが適切なものがみつからず,結果としてポリマー粒子関連の解析は停滞している.このトピックについてはやや遅れていると言わざるをえないが,古くから用いられている白色粉使用については研究実績があるので,次年度はこれを再度改良して用いて,ポリマー粒子解析にも気泡解析の手順が応用できると考えている. また,次年度課題のモデリングについては予備的な検討に着手済みで,気泡の空間分布および気泡数はポアソン分布に,保護領域はΓ分布によるモデル化が可能であることを示し,この点については既に査読付き論文として一部の成果を発表することができた. 以上を総合的に考慮して,(2)おおむね順調と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画に従い,気泡に関しては評価フェーズから一部着手済みの分布のモデル化のフェーズへと進める.そのモデルの妥当性を検証するために,空気量およびペースト量を変化させて,気泡画像の取得を行う.多様な気泡分布構造を再現して耐凍害性評価実験(スケーリング試験)を実施する.スケーリング抵抗性とモデルで推定される保護領域の対応から,材料物性としての保護領域の値を求める.特に,ペースト量の低減配合では空気量の低減が図れる可能性を模索し,結果としてセメント量を低減(CO_2低減)した配合における耐凍害性付与に関する基本的な知見を得ることを試みる. 高吸水性ポリマーに関しては,上述のとおりその識別,同定から着手することにして,黒色塗布,白色粉充填手順を確立する.その後,気泡に用いた手法を援用して,吸水膨潤後のポリマー粒子分布評価から,アルカリ環境中での吸水能の評価と点過程としてのモデル化へと進む.また,高吸水性ポリマーは粒子径が気泡に比べて大きいので,画像としては低倍率画像を用いることを旨とし,実務にも導入できる合理的な評価法についての検討を行う.さらに,AE剤により連行される気泡に比べて,径がかなり大きくかつ粒子数が少ないのに,耐凍害性を付与できるメカニズムを,空間分布と粒子間距離の視点で考察する. ミクロレベルに関しては,セメント,毛細管空隙それぞれについての空間分布評価法はほぼ確立できている.これをローカル材料を用いた結合材ペースト構造の評価へと展開する足掛かりとして,LC2,LC3を念頭において,焼成粘土試料および資料の収集に着手する.資料収集状況に応じて,結合材ペーストの微視的構造,特に粒子の空間分布構造の評価へ進むことを計画する.特に,これらのクリンカー量低減系の組織は,国内外で研究が行われているので,独創性に注意して,空間統計学手法を適用できるトピックの探索を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を国際学会や国内学会で発表するための旅費,および定例的に開催されるRILEMのミーティングに参加するための旅費を計上していたが,コロナ禍によりほとんどの学会がオンラインとなった.外国開催の学会参加は,現地にて研究発表を行い,対面でディスカッションしたり会場でディスカッションを聞くことが大きな目的である.しかし,オンライン会議では参加者が少なく,かつ活発なディスカッションが期待できないことや時差による不都合もあるため参加を見合わせた.このため,参加登録料や旅費が消化されず,結果として次年度使用となった.
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