研究課題/領域番号 |
21K04212
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 正光 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10402968)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レジリエンス / 災害復旧工事 / 公共調達 / 入札不調 / オプション取引 |
研究実績の概要 |
災害復旧工事では、入札工事に応札者が1者も現れなかったり、札入れ価格が予定価格を超えていたために入札が成立しなかったりする入札不調の問題がしばしば生じる。入札不調は、利用可能な人的・物的資源を超えた工事需要が発生し、一時的な需給調整の不調が生じていることを示唆している。入札不調は、契約が成立しない工事の入札準備を実施する無駄な費用を生み出すとともに、パニック時に生じる買い占め問題と同じ構造を有しており、資源配分上の非効率も生み出す。本研究では、入札不調による経済的損失を軽減するために、オプション取引を活用した仕組みを提案することを目的としている。 本研究の初年度である令和3年度では、これまでの災害事例における入札不調の実態を知るための基礎データを収集した。具体的には、2018年西日本豪雨、2016年熊本地震の後の災害復旧工事における地方自治体の災害復旧工事における災害復旧、契約件数、入札不調件数に関する情報を収集した。ある自治体では、災害復旧工事で発注した工事の約2割が入札不成立となっていることが判明した。また、入札不調を回避するために、災害復旧工事に対応した積算方法の適用、大きめの発注ロットの設定、入札資格対象者の拡大やフレックス工期の設定などの対策を実施している地方自治体があることもわかった。 初年度の研究は、災害復旧工事における入札不調が地方自治体で頻繁に生じており、地方自治体の中で可能な対策を講じている実態を明らかにしたことを明らかにした。一方で、国や県、市町村などのさまざまな発注主体間での調整メカニズムは存在せず、建設市場全体の問題として調整システムが必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である令和3年度は、課題「災害復旧工事における需給ギャップと入札不調の影響に関するデータ収集と分析」に取り組み、本研究の最終的な目的である災害復旧工事におけるオプション取引の活用の意義を明確化するために、災害復旧工事における入札不調の実態を明らかにすることを目指した。その結果、地方自治体における入札不調の問題がデータからも現場の感覚からも、無視できない問題であることを確認するとともに、各自治体でできる範囲の対応策を講じている一方で、建設市場全体として、資源配分を調整するためのメカニズムが欠如しており、本質的な問題改善に至っていない実態が明らかにしたという点で、当初予定していた結論を得ており、概ね順調に進展していると言える。ただし、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、当初想定した一部の地方自治体及び建設企業へのヒアリング調査が実施できておらず、令和4年度にも実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は、災害復旧工事の入札不調抑制に資するオプション取引制度を提案することにある。令和4年度は、令和3年度で得られた知見に基づき、入札不調による経済的損失概念を明確にし、オプション取引導入の経済的価値を明らかにする。上述の通り、災害発生時の物価高騰リスクをヘッジするためには、アメリカン・コールオプションを適用することになる。現実の制度に落とし込む際には、まず第1に、どの価格インデックスに対してオプションを定義するのか、次に、満期や行使価格をどのように設定するのかを具体的に検討する必要がある。こうした検討を経て、オプション取引制度のプロトタイプモデルを開発する。令和5年度には、令和4年度で開発するオプション取引制度のプロトタイプモデルは、あくまでも机上の理論に基づいて検討されたものである。本研究では、最終的な研究成果として、実装可能な制度を提案することを目的としている。プロトタイプモデルをたたき台としつつ、当該制度に関係する行政や建設業界、さらには金融業界との議論を通じて、実装に向けた課題点を洗い出し、課題克服のための対策指針を検討した上で、プロトタイプモデルの改善を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、予定していた学会出席及び地方自治体や建設企業へのヒアリング調査を実施することができなかった。実施できなかったヒアリング調査は令和4年度に持ち越して実施する予定になっている。
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