研究課題/領域番号 |
21K04253
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
森河 由紀弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20710239)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液状化対策 / 地中連続壁 / 格子状地盤改良 / 浮き型格子状地盤改良 / 過剰間隙水圧消散工法 / 排水工法 / 既設構造物 / 複合型改良体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,住宅などの既設小規模構造物にも経済的に適用可能な液状化対策の開発である.本研究では,既設構造物の周囲を浮き型格子状地盤改良で囲う液状化対策方法に着目し,これまでの検討により構造物の傾斜被害を抑制するためには浮き型格子状地盤改良に過剰間隙水圧消散工法等を併用することが望ましいことを確認した.そこで,本検討では経済的かつ現実的な方法として一般的な地盤改良を想定した不透水性改良体の一部に排水性の高い改良体を組み合わせた複合型改良体を新たに考案し,令和3年度において下記の検討を行った. 【検討①】排水ドレーンが地盤剛性等に与える影響:本検討では土槽の片端に排水ドレーンを設置し,平面ひずみ条件を満足した二次元の振動台実験を行い,排水ドレーンを設置した場合における液状化地盤の変形挙動および地盤剛性について検討を行った.検討の結果,排水性改良体から一定の範囲(ドレーンから概ね深度に対して半分程度の距離)では,液状化していたとしても構造物の沈下に伴う地盤内変位が生じにくい「低流動化領域」が形成され,さらに排水ドレーンにより水圧の消散が期待できる範囲(ドレーンから概ね深度に対して同程度の距離)では液状化後において地盤のせん断強さが大きく増加することがわかった. 【検討②】複合型改良体が液状化対策効果に及ぼす影響:本検討では複合型改良体を用いた浮き型格子状地盤改良を土槽内に設置し,偏心した模型構造物を用いて平面ひずみ条件を満足した二次元の振動台実験を行った.検討の結果,全改良長における排水性改良体の比率が大きくなるほど液状化対策効果が増大する傾向が明らかとなった.さらに,改良体の上部に排水性改良体を組み合わせた上部排水のケースでは下部排水のケースに比べ,構造物の影響が大きい浅層部付近において排水効果が得られるため,高い液状化対策効果が期待できることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,住宅などの既設小規模構造物にも経済的に適用可能な液状化対策の開発を目的とし,令和3年度では新たに考案した不透水性改良体の一部に排水性改良体を組み合わせた「複合型改良体」を用いた浮き型格子状地盤改良について,その液状化対策効果や有効範囲等について明らかにすることを目標に掲げ,排水ドレーンが地盤剛性等に与える影響と複合型改良体が液状化対策効果に及ぼす影響について検討を行っている. 排水ドレーンの効果に関する検討では,地盤が液状化したとしても排水ドレーンの効果により低流動化領域が形成されることを確認するとともに,特に改良体の近傍では液状化中でも地盤剛性が高い傾向にある事を小型ベーン試験機により確認した.さらに過剰間隙水圧の消散効果が高い領域では液状化後においても地盤剛性が飛躍的に増加することが確認できた.今日までの過剰間隙水圧消散工法の多くは過剰間隙水圧比を抑制に着目した検討内容が多く,本研究成果は複数回の地震動に伴う再液状化の抑制にとっても重要な結果であると言える. 複合型改良体を用いた検討では,全改良長における排水性改良体の比率が大きくなるほど液状化対策効果が増大する傾向があることに加え,排水性改良体を構造物の影響が大きい上部に設置した場合,構造物の沈下に伴う地盤内変位が比較的浅い範囲で収束するため構造物の沈下量が小さくなり,排水性改良体を下部に設置するよりも効果的な対策効果が得られることが明らかとなった.一方で,複合型改良体を用いた場合の有効範囲の検討については,排水性改良体の範囲や位置による効果が複雑に影響するため,検討の余地は残されていると言えるが,排水性改良体の比率に応じた改良効果や設置深度における影響は明らかとなっているため,令和3年度における進捗状況は概ね順調だったと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究が対象としている浮き型格子状地盤改良に関して,これまでは主に不透水性改良体を用いた二次元振動台模型実験および数値解析により,改良間隔や改良深度が液状化対策効果に及ぼす影響について検討してきた.ここで,構造物の沈下被害については浮き型格子状地盤改良により液状化地盤の側方流動を抑制することで低減が可能であるため,完全排水性改良体や複合型改良体を用いたケースにおいても,改良体の排水効果により沈下抑制効果は増大するものの最適な改良間隔や改良深度に関しては不透水性改良体と同様の傾向が得られると考えられるが,高い排水効果が得られた場合にはさらに不透水性改良体では対策効果が小さかった改良間隔や改良深度においてもある程度の効果が期待できる.そのため,本研究の目的の一つでもある「改良仕様(改良間隔,改良深度,不透水性改良体と排水性改良体の比率)の最適化」には,その副次的な効果や影響範囲についても考慮する必要がある. しかし,複合型改良体を用いる場合の対策効果やそのメカニズム,排水効果の影響範囲などについては,全改良深度に対する排水性改良体の比率や排水性改良体の設置位置によって非常に複雑になると考えられる.そのため,複合型改良体を用いた浮き型格子状地盤改良の液状化対策効果とそのメカニズム,有効範囲を明らかにするためには,これまで行ってきた地盤内変位の可視化(低流動化領域など)に加え,新たに色水等を用いた間隙水の動きについても可視化を行い,間隙水の動き,地盤内変位,過剰間隙水圧などの多角的な視点により検討する必要がある.そのため,本研究では計測項目も再考し,これまで主に行ってきた二次元振動台実験に加えて三次元振動台実験,そして非線形有限要素解析などにより詳細な検討を行う予定である.
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