研究実績の概要 |
本研究では,瀬戸内海における外洋起源有機物の動態を解明し,近年のCOD異変への影響を明らかにすることを目的とする.そのために,河口‐湾灘‐外洋に至るマルチスケールの力学現象をシームレスに解析可能な三次元流動モデルに,有機物を起源別・形態別に分画した物質循環モデルを組み込んだ瀬戸内海COD評価モデルを開発し,瀬戸内海に存在する外洋起源有機物の存在量とその変動を明らかにする.海域CODの制御可能性とその限界を定量的に示すことで,瀬戸内海における今後の水質管理方針の抜本的見直しを提案する.2年目である2022年度には,以下の内容に取り組んだ. ・瀬戸内海‐太平洋領域を対象に3D流動モデルを構築し,外洋起源の難分解性有機物の時空間挙動について,保存性トレーサー解析を行った.その結果,一部河口域を除き,外洋起源有機物は瀬戸内海にほぼ一様に分布しており,黒潮流路変動の影響は小さいと推察された.また,瀬戸内海に存在するCODのうち,最大で6割,最小でも2割が外洋起源であることが示された. ・海域への淡水流入量および物質負荷量を高精度に算出するために,瀬戸内海の全集水域を対象に分布型流出モデルを構築し,ほとんどの一級河川に対してNSE>0.7と比較的高い流量算定精度を確認した.さらに,COD,TN,TPに関する点源負荷の実績データをGISで整理,空間解析し,物質動態モデルを用いた流出解析を行うことで,降雨出水時を含めた海域への汚濁負荷量を高精度に算定することを可能にした. ・瀬戸内海‐太平洋の広範な領域に対して高解像モデルを構築する本研究では,生態系モデルのパラメータチューニングにおいては計算速度がネックとなる.そこで,スーパーコンピュータ「富岳」環境下に3D流動水質モデルを移植するとともに,MPI+OpenMPのハイブリッド並列を実装することで,数値計算の大幅な高速化を実現した.
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