研究課題/領域番号 |
21K04282
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
菊 雅美 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50714127)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 音の分類 / 教師なし学習 / 機械学習 / 礫浜地形 |
研究実績の概要 |
近年,海岸侵食が顕著化し,波浪災害の抑制や生態系の保全として重要な役割を担っている海浜が失われつつある.海岸侵食対策を適切に講じるには,地形変化特性を明らかにする必要がある.申請者はこれまでに,三重県南部に位置する七里御浜井田海岸を対象に,定期的なUAV測量を実施し,短期的・長期的な礫浜の地形変化特性について検討している.ただし,観測頻度は2か月に1回程度であり,その間に生じる地形変化を検討できていない.また,現地海岸に作用する波浪を観測できておらず,地形変化をもたらす波浪は不明確である.これらの課題に対し,波の音から波浪状況や地形変化を推定できれば,常時観測が可能となる.そこで,本研究課題では,音から波浪および地形をリアルタイムに推定する手法を構築し,現地に堆積をもたらす波浪条件を解明することを目的とする. 現地海岸の地形変化特性を明らかにするため,UAV測量を実施し,三次元点群モデルから数値表層モデルDSMとオルソモザイク画像を構築した.DSMから,観測間の水際線の変動や地形変化量を算定した.また,オルソモザイク画像を用いて礫浜の構成物を自動分類する機械学習モデルを構築し,構成物の時空間変化について明らかにした. 礫浜を対象とした水理模型実験において,時々刻々と変化する地形を三次元的に計測する計測手法を確立した.そして,実験中に音を収録し,教師なし学習によって波浪条件を分類した.その結果,FFT画像の次元削減とクラスタリングによって,波浪条件を分類できることがわかった.また,同一波浪条件を対象としたFFT画像の次元削減とクラスタリングを実施し,三次元地形計測結果と比較した.その結果,教師なし学習により,初期の地形変化を分類できることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画の通り,礫浜を対象とした水理模型実験を実施した. 水理模型実験における三次元計測手法を構築し,実験中に時々刻々と変化する地形を三次元的に計測することが可能になった.また,実験中に収録した音に機械学習を適用する際,波浪や地形を分類するためのデータセットについて検討し,FFT画像で分類するとよいことが明らかとなった.FFT画像を教師なし分類することで,波浪条件や地形の状況について,分類できることがわかった.また,礫浜上に消波ブロックを設置することで,地形の変化過程が異なることが明らかとなった.消波ブロックが設置されているときの波の音も収録することができた. コロナ禍でも七里御浜井田海岸を対象とした現地観測を定期的に実施し,UAV測量により礫浜のDSMとオルソモザイク画像のデータを蓄積できた.また,オルソモザイク画像に写る礫浜の構成物を自動分類する機械学習モデルを構築し,礫浜構成物の空間分布を作成できるようになった.これにより,標高のみならず,構成物にも着目し,礫浜の時空間変化について考究することが可能になった. 以上より,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により,実験中に収録した音のFFT画像に教師なし学習を適用することで,波浪条件や初期の地形変化を分類可能であることがわかった.地形の状況をより正確に把握するため,三次元地形計測手法の計測精度向上を図る.そして,波浪条件を様々に変化させた水理模型実験を行い,収録音を蓄積する.水理模型実験において波浪条件は既知であるため,音から波浪条件そのものを判別できるようにする.また,改良した地形計測手法を用いて地形変化の状況をより精緻に可視化し,音との関連性を明らかにする.実際の海域は不規則に波が作用するため,不規則波作用下における水理模型実験も実施する.そして,実験結果に学習済みモデルを適用し,対象時間内における代表波高および代表周期を推定できるようにする. 現地海岸で音を収録するためのシステムを構築する.指向性の高い集音マイクの選定と収録方法について検討する.UAV測量実施時に,構築した収録システムを用いて現地海岸の音を収録する.収録した音を分割し,構築したモデルを適用する.現地地形の観測結果と照らし合わせながら,海岸に打ち寄せる波の音から地形を分類できるようにモデルを改良する.
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会(第46回海洋開発シンポジウム,第68回海岸工学講演会,令和3年度全国大会第76回年次学術講演会,令和3年度土木学会中部支部研究発表会)がすべてオンライン発表会となったため,旅費が生じなかった. 令和3年度に実施した教師なし学習は計算不可が小さかった.PCの性能は毎年向上しており,必要となった時点で購入した方が費用対効果が大きくなる.そのため令和3年度に計上していた高性能PCの購入を次年度以降に見送った.
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備考 |
受賞: 1) 菊 雅美:令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会優秀講演者,機械学習を用いた音解析による波浪条件の分類に関する一検討,土木学会
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