研究実績の概要 |
近年,薬剤耐性菌が引き起こす様々な問題が世界中で大きな課題となっている.その薬剤耐性菌の環境への放出源の一つと考えられているのが,汚水処理施設である.浄化槽(合併処理浄化槽)は家庭から排出される汚水を処理するための戸別汚水処理施設として日本の下水道未整備地区で広く利用されている.しかし,浄化槽の汚水処理工程におけるの薬剤耐性菌の消長は調査されておらず,その増減のメカニズムも明らかとなっていない. 本研究では,浄化槽処理工程おける薬剤耐性菌および薬剤耐性遺伝子を評価し,その消長を明らかにすること,浄化槽内での水平伝播の発生状況や微生物群集構造との関係を明らかにすること,薬剤耐性菌および薬剤耐性遺伝子を抑制もしくは低減できる浄化槽の操作運転条件を明らかにすることを目標としている. 初年度である本年度は薬剤耐性遺伝子のPCRを用いた検出条件の検討とともに,浄化槽の処理水および堆積汚泥から採取したDNAの中に薬剤耐性遺伝子が存在を調査した.テトラサイクリン系薬剤の耐性遺伝子として報告のあるtetA, tetB, tetC, tetG, tetM, tetO, tetQ, tetW,スルホンアミド系薬剤の耐性遺伝子として報告のあるsul1, sul2, sul3,キノロン系薬剤のの耐性遺伝子として報告のあるqnrA, qnrB, qnrD, qneSの3種薬剤に対する耐性遺伝子合計15種を対象として,既報のプライマーを用いてPCRでの検出条件を検討した. その結果,その多くにおいてそれぞれの耐性遺伝子のシングルバンドが検出できるPCR条件を探すことができた.また,複数の浄化槽のすべてにおいて,汚水処理工程の前半となる嫌気槽の水および汚泥さらに汚水処理工程後半のから,対象としたほぼすべての耐性遺伝子が検出され,浄化槽の中に多くの種類の薬剤耐性菌が広く存在していることが明らかとなった.
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