研究課題/領域番号 |
21K04316
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
佐藤 辰郎 九州産業大学, 建築都市工学部, 准教授 (20711849)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 山地河川 / ステップ-プール構造 / 縦断水位観測 / 魚類群集 |
研究実績の概要 |
河川の上流を流れる山地河川では洪水と土砂流出による災害に対応するため,洪水の疎通能力の確保,河道の安定化を目的とした,砂防ダム,コンクリート床固工などの工法が日本国内で広く採用されてきた。その結果として,環境の単調化,縦断的な連続性の分断化,生物多様性の低下など様々な環境問題が深刻化している。平成2年に「多自然型川づくり」が導入されて以降,治水と環境の両立を目指した河川管理が進められてきたが,平地河川と比較して,山地河川の研究は限られており,環境に配慮した山地河道の改修も数件程度に留まっているのが現状である。そこで本研究では,環境配慮型の河川改修手法が導入された山地河川を環境・治水の両観点で評価し,導入された手法の効果と課題を明らかにすることを目的としている。今年度は,環境に配慮した河川工法で洪水被災後の河川改修が実施された山附川において,環境面と治水面の現地調査とデータ解析を実施した。環境面については,魚類の生息状況調査を周辺の自然河川と合わせて実施し,10年前には魚類の生息量に有意な差があったものの,2021年には有意な差が認められないほど,自然河川に近づいていることが明らかとなった。一方,治水面については,水位ロガーを山附川に縦断的に設置し,極めて希少な山地河川の洪水時の水位縦断データを取得したほか,逆解析により洪水時の粗度係数の時間変化を明らかにした。山地河川の粗度係数は平水時には多様な値を取る一方で,水位の上昇に伴って一定の値に収束することなどが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,環境配慮型の河川改修手法が適用された山地河川を周囲の対照河川と比較し,環境・治水の両側面から適用手法の効果と課題を定量的に明らかにすることを第一の目的としている。本年度は,環境に配慮された河川改修がなされた河川の環境面と治水面の両面からの機能評価を行うため,現地調査を計画していた。河川工事等の関係で調査河川は少くなったものの,メインの調査ターゲットである山附川における現地調査とデータ解析は完了した。環境面については,計画の通り,河川の魚類調査を実施し,ハビタットの構造と生物群集の河川間の差違を明らかにした。また,数理統計モデルにより魚類の生息に対して重要な環境要因を特定した。治水面についても,計画に記した通り,水位ロガーを河川縦断的に設置し,極めて希少な山地河川の洪水時の水位縦断データを取得した。また,UAV(Unmanned Aerial Vehicle)による写真測量を定期的に実施し,河道の3次元地形データを取得した。更に,取得した水位縦断データと河道の地形データを基に,平面2次元水理シミュレーションにより洪水時の流れを再現し,粗度係数の時間変化を逆推定に成功した。工事等の影響で調査河川については減少したものの,当初の予定を上回る成果が出ており,本研究はおおむね順調に推移しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
治水面の評価に関しては,今年度に取得した水位,流量のデータは中規模程度の出水であり,大規模出水時にどのような洪水の挙動になるのか,河床の抵抗特性はどのようになるのかのデータは取得できていない。次年度は,当初の計画の通り,山附川における現地観測を引き続き継続していく。初年度の研究により,水位モニタリングの結果,ある程度密に水位データを取得しなければ,山地河川の洪水時の水の挙動や水面形は見えてこないことが分かってきた。そのため,モニタリング機器は様々な河川に分散して設置するのではなく,河川を絞って集中的に設置することで,より密な水位データを取得を目指すこととする。また,環境面の評価についても,ハビタットの詳細な評価が重要であることが示唆されたため,治水面の評価を実施する河川に集中的に実施することで,どのような構造が重要となっているかの評価を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響等もあり,参加を予定していた学会や調査の延期が発生したため,次年度使用額が生じた。次年度に延期となった学会に参加することで使用する予定である。
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