初年度では、モデル構築を目指す実際のメタン発酵槽の細菌叢を明らかにするために、下水(廃水)処理場採取サンプルと嫌気ボトル(窒素・炭酸混合ガス充填バイアル瓶)継代培養サンプルの16S rRNAメタゲノム解析を行い、97%相同性によるOTU (Operational Taxonomic Units)解析を実施した。また、嫌気性繊毛虫GW7株の共生細菌のメタゲノム解析により、その全ゲノムとコードされる遺伝子を明らかにした。これらの成果は多くの嫌気性微生物研究へ活用できるようにDDBJデータベースへ登録し、さらにオープンアクセスジャーナルによりその詳細を報告した。 次年度では、初年度で明らかにした共生細菌の完全長ゲノムより、共生細菌が宿主嫌気性繊毛虫へ与える影響についてバイオデータベースならびにバイオインフォマティクスツールを用いて解析した。その結果、共生細菌のゲノム上にコードされるATP/ADP translocaseが構造的な健全性を保ち、酵素活性を有している可能性が高いことを明らかにした。共生細菌はATP合成オルガネラであるヒドロゲノソームに密着して存在していることや、そのジーン・レパートリーより糖やアミノ酸の発酵代謝、水素や低級脂肪酸等の利用も困難であることから、宿主嫌気性繊毛虫のATPを搾取して生育している可能性が高いと考えられた。また、抗生物質で共生細菌を除くと宿主嫌気性繊毛虫は生育できないことから、共生細菌は宿主嫌気性繊毛虫の生存に必須の何らかの機能を担っていることが推測された。 最終年度では、初年度と次年度で得られた知見を基に共生細菌の代謝経路や宿主嫌気性繊毛虫の生存や代謝に果たす役割について詳細な検証実験を実施した。今後、これらの研究成果を国際学術誌へ論文報告する予定である。
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