研究課題/領域番号 |
21K04327
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
宮里 直樹 群馬工業高等専門学校, 環境都市工学科, 准教授 (00435413)
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研究分担者 |
松浦 哲久 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (90771585)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 硫酸塩還元 / 無機溶存物質 / Bacillus属細菌 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
1.研究目的・実施内容:本研究では,ケイ酸を添加した人工下水を用いて馴養した活性汚泥、およびケイ酸を主体とした資材を添加して処理を行うし尿処理施設の活性汚泥(連続処理装置の代替として実施)の菌数計測,微生物叢解析を行うとともに,嫌気条件の回分試験により,硫酸塩濃度の減少速度を比較した. 2.実験方法:ペプトンを有機源とした基質に,オルトケイ酸ナトリウム添加基質を用いた条件(Run1)と基質のみのControl(Run2)条件の2系列で活性汚泥をバッチ方式により馴養した.Bacillus属細菌数を寒天培地によるコロニー培養により,硫酸塩還元細菌数をMPN法により計測した.活性汚泥を採取し,容量50mlのシリンジによる嫌気回分試験(硫酸塩還元活性試験とした)を行った.また汚泥から DNAをキットで抽出し,16S rRNA遺伝子を対象とするMiSeq解析を実施した.なお連続式の処理装置の代替として,ケイ酸を主体とした資材を利用するし尿処理施設についても,室内実験と同様の実験を行った. 3.実験結果と考察,今後の課題:Siの有無に関わらず39日程度の運転期間後におけるBacillus属細菌のコロニー数は10^5個/gMLSS程度であり,大きな差は確認されなかった.硫酸塩還元菌数は10^5~10^8程度であったが,ケイ酸添加による差は確認されなかった.Run2において,硫酸塩濃度の減少が確認された.Run1では,濃度減少がすぐには起こらなかったが,24h後までにやや減少した.ケイ酸添加基質の基質条件では,どちらとも硫酸塩濃度の減少は確認されなかった.ケイ酸により硫酸塩還元反応が抑制されたと考えられる.ケイ酸資材を投入しているし尿処理施設汚泥では,Anaerolineaceaek科の割合が高く,微生物叢に違いが確認された.馴養した活性汚泥では,Anaerolineaceae科などの存在割合の大きく,種汚泥から微生物叢は変化していることが確認できたが,Run1とRun2に大きな違いは確認できなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の本研究課題では,前橋市のRし尿処理施設の活性汚泥(以下R系汚泥)を使用し,容量500mlのPET製容器を用いた馴養試験を行った.なお,実験計画の再考の際において,前年度の結果と比較することも重要であると考えられたため,再度バッチ式により実験を行った.初期汚泥濃度を同様のMLSS=2,000mg/Lとした.ペプトンを主とした基質に,オルトケイ酸ナトリウムをケイ素源として添加(Si=100mg/L)し,20℃の恒温槽内にて馴養した. 今回においても,馴養装置の設定や基質排出用ポンプの不具合による中断などもあったが,2系列×2回の馴養試験を行い,ケイ酸添加の有無による硫酸塩還元活性に対する違いを確認することができた.また,微生物菌叢解析(Miseq解析)までを実施し,菌叢を比較・考察することができたことから,おおむね予定通りに実施できたと考えている.しかし,馴養汚泥中のBacillus属細菌数のコロニー数,硫酸塩還元細菌のMPN数に明確な差を確認できなかった.またMiseq解析の結果からも,微生物叢に大きな違いを確認することができなかったため,どのような原因により硫酸塩還元活性に差が出るのか,より考察が必要である. また今年度,実際にケイ酸資材を添加しているし尿処理施設活性汚泥についての微生物叢解析もおこなうことができた.ケイ酸資材添加を行っていないM施設汚泥では,Nocardiaceae科の存在割合が高く,ケイ酸資材を定期的に投入しているA施設汚泥では,Anaerolineaceaek科の割合が高かった.微生物叢に違いが確認されたが,この違いがどのように硫化水素発生抑制(硫酸塩還元活性の抑制)に関わるのかは,さらなる考察が必要な状況である.
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今後の研究の推進方策 |
1.活性汚泥馴養試験の継続:令和4年度に実施できていない連続式の馴養装置による馴致を行う.用いる人工下水(ケイ酸ナトリウムを添加したもの)の組成は変更せず,基質変更による影響がない条件で実施する.運転条件による違いなどを確認する.その後、馴養した活性汚泥中に存在する硫酸塩還元微生物やBacillus属細菌等について,その変化を確認する.馴養した活性汚泥による嫌気条件の回分試験を実施し、硫酸塩濃度の減少速度(硫酸塩還元活性)を回分試験により確認する.また発生する硫化水素の濃度を北川式検知管により簡易型に計測する.硫酸塩還元細菌の菌数やBacillus属のコロニー数と比較し、ケイ酸などの無機物質添加による硫化水素の発生状況を調べる.なお,連続室内実験装置により馴養された活性汚泥より定期的に試料からDNAを抽出し、金沢大学(共同研究者)にて次世代シーケンサー(Miseq解析)による活性汚泥中の微生物叢解析を実施する. 2.硫酸塩還元活性抑制の原因解明:最終年度に,硫酸塩還元活性を抑制する原因として仮説を立てている,抗生物質(iturin A)の検出を試みる.Bacillus属細菌には,他の微生物を死滅または活動を抑制すると考えられる抗生物質(iturin A)を分泌することが知られている.活性汚泥から抽出するBacillus属細菌より抗生物質が検出されるかを,高速液体クロマトグラフィーを用いて試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時,購入品目に含めていた実験装置作成のための材料購入を見送ったため,その分が令和5年度に先送りとなっている.また,新型コロナウイルス感染拡大防止の影響により,共同研究者との打ち合わせ方法がオンライン中心になったことで,旅費が計画当初よりも少なくなったことも理由である.最終年度において,実験装置の確認作業など,実際に対面での打ち合わせ回数も増えることが考えられるため,当初の計画通りに使用することができると考えている.
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