研究課題/領域番号 |
21K04333
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 保宏 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30262877)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 履歴ダンパー / 制振構造物 / 性能設計 / 累積塑性変形倍率 / 最大変形量 / 確率論的地震ハザード / マルチスプリングモデル |
研究実績の概要 |
履歴ダンパーを設置した制振構造物(以下,制振構造物)の設計・性能評価には,その要求性能として供用期間中にダンパーに生じうる最大変形量と累積塑性変形倍率の確率特性が必要となる。地震時における弾塑性多層骨組の各層の最大層間変形角を簡易にかつ精度よく評価する方法として,申請者はこれまでに,応答スペクトルによるモーダルアナリシスを,一次モードについてのみ弾性スペクトル変位応答を等価な弾塑性一質点系の最大変位応答に置き換えると共に,降伏後の振動モードの変化を考慮することで塑性域まで拡張をした手法を提案している。助成研究初年度は,この手法を制振構造物に適用するために,履歴ダンパーは早期に塑性化することから,すべてのダンパーが塑性化したものとして固有値解析を行い,ここから二次以上の「弾性」振動モードを評価することで,高次モードの影響も考慮した履歴ダンパーの最大変位応答評価法の精度向上を図った。また,等価な弾塑性一質点系であるMSモデル(マルチスプリングモデル,現在までの達成度参照)の最大変位応答を,Tri-linear型復元力特性を有する一質点系の簡易応答評価手法である固有周期依存型スペクトル強度を地震動強さとする評価法を用いて精度よく評価できることを示した。 助成研究2年度は,1次モードと等価なMSモデルについて,MSモデルの各せん断バネの累積塑性変形倍率の比率は降伏変位の最も小さなバネの最大塑性率と,各バネの降伏変位の比の簡単な関数で表されること,また,MSモデルが吸収する総履歴エネルギーは,これまで提案されている完全弾塑性型復元力特性を有するバネの累積塑性応答倍率の簡易評価法を用いて得られる各ばねの履歴エネルギーの総和により評価できること見出し,これらを組み合わせた,MSモデルの各せん断バネの累積塑性変形倍率の簡易応答評価法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,制振構造物の耐震性能設計を実現するために,地震の発生や地震動特性の不確定性,個々の建物の構造特性を考慮しながら,ダンパーや構造物全体の耐震性能を確率論的尺度によって評価する手法を提案し,さらに実用的な耐震性能評価法の枠組みとして構築することにある。履歴ダンバーの変形は層間変位のみに依存していることから,申請者はこれまでに,架構と各層のダンパーをそれぞれ一つの弾塑性せん断バネに置換し,それらを並列に並べた1質点系モデル(MSモデル)を提案している。本研究では,MSモデルを用いることを念頭に,建設地点での確率論的地震ハザードを考慮しながら下記の3つの課題に取り組み,その成果を統合することで制振構造物の実用的な耐震性能評価法を構築する。 ① 制振構造物の各層の最大層間変形角および各層のダンパーの最大変形量の簡易評価法の開発 ② MSモデルの応答解析結果を用いた高次モード応答を考慮した各層のダンパーの累積塑性変形倍率の簡易評価法の開発 ③ 各次振動モードに対応したMSモデル内の各せん断バネの累積塑性変形倍率の簡易評価法の開発 助成研究初年度は,①および②について研究を進め昨年度提出した報告書中の「研究実績の概要」に示す通りの成果を得た。なお,②について初年度は,MSモデルの時刻歴応答解析から得られた累積塑性変形倍率を用いて検討してきたが,研究助成2年度は③について検討を進め,上記の「研究実績の概要」に示す通り課題③の解決への方向性を見出した。 以上の理由からおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最大応答の評価の際には,高次モード応答を弾性応答で近似評価しても十分な評価精度が得られたが,累積塑性変形倍率は塑性化を考慮しなければゼロになってしまうことから,これを考慮する必要があることから,本研究では,最大応答の評価の際に用いた1次モードと等価なMSモデルに加え高次モードと等価なMSモデルを用いている。研究助成2年度までには,「現在までの達成度」に挙げた3つの課題のうち,①,②は達成し,③については,1次モードと等価なMSモデルの累積塑性変形倍率の簡易評価法を提案した。研究助成最終年度では,高次モードと等価なMSモデルに対して,1次モードと等価なMSモデルの評価法が適用できるか検討する。高次モードと等価なMSモデルの各せん断バネの復元力特性は,剛性が高く降伏変位の小さなものやその逆のものが存在し,このような特性が,簡易評価法の精度にどのような影響を及ぼすか把握し,これを定量化する。 このようにして各層の累積塑性変形倍率の評価法を開発したのち,その確率特性の評価手法を検討する。最大変位応答の評価の場合と同様に3つの超過確率に対応する応答値で等価な移動対数正規分布に近似して評価する手法が適用できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため学会や打ち合わせ等がオンラインで開催され,予算計上していた旅費をほとんど使用することがなく,また,今年度は,アイルランドのダブリンにて第14回確率統計論の構造工学への適用に関する国際会議が開催される予定であるが,渡航費が高騰しており,それに充てるため。
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