研究課題/領域番号 |
21K04334
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 皓平 京都大学, 工学研究科, 准教授 (40648713)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 複合災害 / システム同定 / モニタリング / 非構造部材 / 画像計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,地震による被災に加えて,気候変動に伴ってリスクが高まっている豪雨・暴風などの様々な災害に対して市庁舎や病院,高層建物といった建物施設を安全に,安心して継続的に利用するために,建物に要求される構造性能や設備機能の健全性を早期に判断するための建物機能診断モニタリングシステムの開発を目指すものである。本研究は,研究代表者が取り組んだ基盤研究C「重要災害拠点を対象とした非構造部材を含む建物の総合的な耐震余裕度評価法」(2018年度-2021年度)と関連して継続的な研究となっている。当該の基盤研究では,建物の設備機能に影響度が大きい非構造部材を対象とした画像モニタリングシステムの立ち上げと振動加振実験や静的加力試験などにより画像データの収集と画像解析手法の構築を行った。非構造部材を対象としたモニタリングでは,設備機能に障害が生じる前に非構造部材の状態を把握することが主な目的となり,その費用対効果を考えると目視点検が容易ではない天井裏などの閉所・暗所空間や機械設備などを対象としていた。本年度では,これらの先行研究と関連してモニタリングの対象とする非構造部材について,天井裏の吊り設備の解析モデルの構築に加えて,画像センサを適用可能な非構造部材の選定を行った。また,これまでに開発を行った画像センサでは,主として地震を想定していることから加速度センサにより建物の揺れを感知して画像データを収集することとしていたが,画像取得によるモニタリングデータを建築系ビッグデータとして建物の機能診断に活用するために,様々な災害シナリオに対して画像データを集積するための仕組みとして,センサのネットワーク化と異常検知機能の実装に向けてモニタリングシステムの改修・振動実験による動作検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な災害が同時的に発生する複合災害やこれまでには考えられなかったような規模の災害が発生した際に,建物を継続的に利用することを想定して建物機能の健全性判断を行うためには,構造部材や非構造部材にどのような応力状態や変形・損傷が生じた時に建物機能がどのような影響を受けるかを明らかにすることと,そのような損傷を検知・評価することが可能で合理的なモニタリングシステムの構築が求められる。構造安全性の評価においては,建物に作用する荷重として主に検討対象となるのは地震荷重であり,地震時に構造部材が受ける最大変形や累積の損傷度を推定することが重要となる。本研究では,建物内に配置される少数の加速度センサから建物全体の被災度判定を行う方法を展開している。具体的には,対象建物の振動解析モデルとして剛性や減衰係数といったモデルパラメータを同定することで,解析モデルを用いた時刻歴応答解析に基づき,地震時に建物内に生じた最大層間変形や最大絶対加速度などを推定する。地震時の建物内の非構造部材は,建物に生じた変形や加速度の影響も受けると考えられ,得られた地震時応答を用いて非構造部材に生じる損傷と機能障害に及ぼす影響を評価している。一方,複合災害を想定する場合には非構造部材に関しては,地震のみならず水害や給水配管の損傷による水損なども想定被害として考えられ,天井・間仕切り壁といった様々な部材や電気・水道など幅広い設備が影響を受ける。本研究代表者が取り組んできた画像モニタリングシステムでは,災害発生の非常時において目視点検が困難な閉所・暗所を想定しており,地震時のみならずその他の複合災害に対して画像取得によるモニタリングの有効性を検討している。さらに,想定される様々な災害に対して新たなモニタリングシステムによる建築系ビッグデータの創生方法とその活用方法について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究でこれまでに展開している,建物内に設置する加速度センサを用いて振動解析モデルを推定するシステム同定法は,対象建物の加速度観測データから得られる伝達関数と同定モデルの伝達関数を一致させることでモデルパラメータを同定している。伝達関数を用いる方法では,建物が線形弾性挙動となる比較的振幅レベルが小さい地震荷重を想定したものとなっている。本手法を実観測記録に適用する際には,実観測記録における計測ノイズの影響や減衰の振幅依存性など様々な非線形性を考慮することが必要となる。今後は,制振建物などダンパーを有する建物について減衰特性の同定精度を高め,地震時の建物全体挙動を把握する。さらに,これらの加速度記録は建物が動的に振動する地震災害を想定したものとなっており,常時作用する長期荷重やその他の振動を伴わない荷重に対して建物部材応力を評価することは,部材ごとに個別なローカルセンシングが望ましい。本研究では,建築系ビッグデータの創生としてこれらの部材レベルの応答データの収集の必要性も挙げており,部材応力の高密度センシングの実現性や代替の応力評価方法を検討している。また,本課題では,建物の健全性評価として,電気・給排水・ネットワークなどの建物機能を提供する設備機器と関連する非構造部材の耐震性能や防振ゴムなどの制振部材の状態を把握することも目的として挙げている。今後は,個々の非構造部材で許容される変形や応力状態とこれらの建物機能に実際に障害が生じる関係性を見出す。さらに,これまでに開発を行った画像計測センサに加えて,モニタリング対象とする非構造部材に応じたセンシング方法を検討する。これらの複数のセンサから得られる1次データを建築系ビッグデータとして集積し,機械学習などのAI技術により画像分析等を行い,状態変化や異常検知を自動的に評価する方法を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では,他科研課題(基盤C:重要災害拠点を対象とした非構造部材を含む建物の総合的な耐震余裕度評価法(2018-2020の当初予定から2021年度も繰り越しで継続))と並行して,画像モニタリングシステムの実大振動台実験への適用を実施している。本研究課題でも継続して開発を行っている画像センサについては,前基盤Cで作成したものを代用することができたことから,モニタリングシステムや検証実験の費用が当初予定よりも少なかった。建物内の様々な観測データを集積し,複合災害に対応するためには,これまでの画像センサのみではなく,他のセンシング方法の必要性も検討しており,センサデバイスの開発・モニタリングシステムの構築や機械学習の実装に向けて,ワークステーションサーバなどの導入を行う。
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