研究課題/領域番号 |
21K04338
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
北山 和宏 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (70204922)
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研究分担者 |
晉 沂雄 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (60727006)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 建築構造・材料 / 鉄筋コンクリート構造 / 柱梁接合部 / 降伏破壊 / 軸崩壊 / 耐震性能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は以下の二点である.(a) 鉄筋コンクリート(RC)骨組内の柱梁接合部が地震動によって降伏破壊した後に軸崩壊する過程を実験で追跡し,軸崩壊に至る変形性能および水平耐力の保持性能を検討する.(b) 柱梁接合部の降伏破壊から軸崩壊に至る力学モデルを作成し,骨組の限界変形を定量的に評価する手法を提示する.そのために以下のような検討を行った. (1) 柱主筋の座屈挙動 RC隅柱梁接合部の軸崩壊は出隅近傍の柱主筋が柱梁接合部内で座屈して引き起こされる.そこで既往の立体隅柱梁部分骨組の三方向加力実験の結果から座屈長さを特定し,座屈発生時の柱主筋圧縮ひずみを加藤の提案を準用して評価した. (2) 軸崩壊直前の柱梁接合部の力学モデル 平面外柱梁接合部を対象にして力の釣り合い条件および柱梁接合部の隅部コンクリート圧壊時の変形の適合条件を考慮したマクロ・モデルを作成した.このモデルによる変形機構から算出した下柱に対する上柱の相対回転角は実験で測定したそれの急増地点とほぼ対応した. (3) 熊本地震で崩壊したRC建物の接合部降伏破壊と軸崩壊 熊本地震では中層RC庁舎において,互いに直交する三本の梁が貫入する側柱梁接合部が軸崩壊した.この建物について二方向水平力および変動軸力を考慮して側柱梁部分骨組の崩壊形を数値計算で検討した.当該柱梁接合部の降伏破壊は一方向水平加力時ではなく二方向水平加力時に発生した可能性が高いと判断した. (4) 降伏破壊後に軸崩壊するRC柱梁接合部の三方向加力実験 上記(3)で示したような側柱梁接合部の降伏破壊後の軸崩壊を三方向加力実験によって検討した研究はない.そこで側柱梁部分架構試験体に三方向加力して接合部降伏破壊から軸崩壊に至る実験を計画した.上記(3)で示した実建物の側柱梁接合部で予測された破壊機構と同一になるように試験体を設計して作製した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では1) 柱梁部分骨組の実験,FEM解析の実施および軸崩壊機構の探究,2) 降伏破壊後に軸崩壊する柱梁接合部の力学モデルの構築,および3) 降伏破壊後に軸崩壊する柱梁接合部の耐震性能評価,の三つの課題に取り組む.課題1)では,三本の梁が貫入する側柱梁部分架構試験体1体を作製した.熊本地震で被災したRC庁舎と同様に,一方向水平加力時には梁曲げ降伏が先行するが,二方向水平加力時には接合部降伏破壊が生じるように設計した.二本の梁が貫入する隅柱梁部分架構の既往実験との比較のため,柱断面,梁断面,梁スパンおよび階高は共通とした. 既往の隅柱梁部分架構試験体を対象に三次元非線形有限要素解析に取り組んだ.解析では分布ひび割れモデルを用い,主筋とコンクリートとの付着作用をボンドリンクによって考慮した.繰り返し一方向水平力および一定圧縮軸力を与える解析によって外柱梁接合部の降伏破壊をほぼ再現できることを確認した.二方向水平力および変動軸力を与えた解析は今後実施する. 降伏破壊を生じた隅柱梁接合部に圧縮軸力が加わると柱梁接合部の損傷進展とともに下柱に対する上柱の相対回転角が増大し,接合部出隅部のコンクリートが圧壊した後に「く」の字状に折れ曲がって軸崩壊に至る.そこで課題2)では,平面のト形柱梁接合部を対象に力の釣り合い条件および柱梁接合部の隅部コンクリートが圧壊するときの変形の適合条件を考慮したマクロ・モデルを作成した.このモデルによる変形機構から算出した下柱に対する上柱の相対回転角(1.8%から4.6%)は実験で測定したそれの急増地点とほぼ対応した. 課題3)については,隅柱梁接合部の軸崩壊を引き起こす要因である柱主筋の座屈について既往実験を用いて検討した.熊本地震で被害を受けたRC庁舎の側柱梁接合部を対象として降伏破壊後の軸崩壊についての検討を行った.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には前年度に作製した側柱梁部分架構試験体に二方向水平力および柱変動軸力を静的に載荷する実験を実施する.また既往の隅柱梁部分架構実験の結果の検証結果に基づいて,新たに隅柱梁部分架構試験体を設計・作製して同様の実験を行う.接合部降伏破壊後に軸崩壊する柱梁接合部のマクロ・モデルはト形の柱梁部分架構を対象としたため,その妥当性の検証にも利用する.実験では,柱梁接合部が降伏破壊してから軸崩壊に至るまでの諸事象(ひび割れの発生,梁・柱主筋および接合部横補強筋の降伏,コンクリートの圧壊,柱主筋の座屈など)を詳細に観察・測定するとともに,柱梁接合部等のひび割れ幅をデジタル・マイクロスコープによって精密に測定する.三本の梁が貫入する側柱梁接合部が実被害のように軸崩壊することを確認したい. 前年度に提案した柱梁接合部のマクロ・モデルは一方向水平力を対象とした.そこで二方向水平力を受けるときの変形機構を考慮できる立体マクロ・モデルへの展開を試みる.前年度のモデルでは下柱に対する上柱の相対回転角を求めることができるが,建物の耐震設計においては軸崩壊時の骨組の水平変形を知ることが重要である.そこでこのモデルをもとにして降伏破壊した柱梁接合部が軸崩壊に至る水平変形性能を求める手法への拡張を目指す. 三次元非線形有限要素(FEM)解析は引き続き実施して,二方向水平力および変動軸力を受けるときの挙動を検証する.以上のように実験,マクロ・モデルおよびFEM解析の結果を合わせて降伏破壊した柱梁接合部の軸崩壊機構を探究する.
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